緋牡丹博徒 お竜参上
この着物の下の緋牡丹をそれほど見たいか見せてもいいが見たらお命いただきます。

1970年 カラー シネマスコープ 100min 東映京都
企画 俊藤浩滋、日下部五朗 監督 加藤泰 助監督 本田達男、土橋享、比嘉一郎
脚本 加藤泰、鈴木則文 撮影 赤塚滋 音楽 斎藤一郎 美術 井川徳道 録音 渡部芳丈 
照明 和多田弘 編集 宮本信太郎 スチール 木村武司 擬闘 谷明憲
出演 藤純子、山岸映子、菅原文太、若山富三郎、嵐寛寿郎、汐路章、平沢彰、川並功、八尋洋、
高野真二、井関悦栄、近藤洋介、沢淑子、安部徹、名和宏、林彰太郎、木谷邦臣、江上正伍、
長谷川明男、沼田曜一、天津敏、村居京之輔、京唄子、鳳啓助、山城新伍、波多野博、岡島艶子


 「緋牡丹博徒」シリーズ6作目となる本作は加藤泰監督がメガホンを取った3作目「緋牡丹博徒 花札勝負」の正統な続編となっており、当時のプログラムピクチャーとしては異例の作品となった。前作でコンビを組んだ鈴木則文と加藤泰が脚本を共同執筆。加藤監督は、人を助けるというのはどういう事なのか…という疑問を矢野竜子に突き付けた。前作でお竜が目の見えない子供を残し、悪人に殺された両親に代わって、病院へ入れてやり若い夫婦に後を頼んで、また渡世の旅に出る処で終わったのだが、果たしてこれで助け切った事になるのか?というのが加藤監督の疑問だ。本作では、久しぶりにお竜と再会した娘が、恨み言を語るシーンがあるのだが、ここで世にあるヒーロー、ヒロインものに一石を投じた事は間違いない。
 本作で、美術賞に輝いた井川徳道による浅草の雰囲気は美しく霧にかすむ十二階の塔は幽玄美を感じさせる。お竜が常次郎と今戸橋で会うシーンのセットは予算の都合上、小さなステージでミニチュアを組んでのセットとなったのだが、雪降る夜に去り行く常次郎にお竜がミカンを差し出すシーンは日本映画史上屈指の名場面となった。この美しいシーンをライティングにこだわり、見事に映し出したのは「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」の赤塚滋カメラマンの手による。ちなみに、この今戸橋のシーンは途中から助っ人として脚本に参加した鈴木則文の手によるものである。ポスターを挿絵画家であり日本画家としても有名な志村立美が手掛け、従来の写真を使ったポスターとは異なる艶やかなお竜さんの姿が話題となった。


 お竜(藤純子)は数年前、お竜と偽って賭場を点々としていた女賭博師の娘お君を探しながら渡世の旅を続けていた。かつて目の不自由だったお君を一人残して、旅立たざるを得なかったお竜にとってお君の安否だけが一番の気がかりだったのだ。長野の温泉町で知り合った渡世人青山常次郎(菅原文太)からお君が浅草にいると聞き、東京へ向った。お竜は浅草の興行界を仕切っている鉄砲久(嵐寛寿郎)の一家に草鞋をぬいだ。その頃、同じ浅草界わいを縄張りとする鮫洲政一家は一座の興行権を奪おうと鉄砲久一家を倒すことを企んでいた。お竜が浅草にやって来た頃と時を同じくして、集団でスリを働くおキイが、鮫州政一家の勘八のふところを狙うもののしくじってしまい、危ういところを鮫州政一家の銀次郎に救われた。お竜は鉄砲久に彼女の詫びを入れる銀次郎からおキイがお君であることを知り数年ぶりの再会を果たした。身寄りの無いおキイは鉄砲久に養女として迎え入れられた。しかし、鮫洲政は銀次郎をたてにおキイを使って鉄砲久から小屋の利権を盗み出してしまう。あえて見てみぬふりをしていた鉄砲久に代わってお竜は鮫州政に差しの勝負を挑み、証文を取り戻すのだった。しかしある夜、鉄砲久は鮫州政の謀略にかかり、殺されてしまう。下谷一帯の権力者金井が仲裁人となった和解の席で、鮫洲政一家はお竜と代貸喜三郎に銃口を向けたが、間一髪、義兄弟熊虎(若山富三郎)に救われた。一方、銀次郎は鮫州に人質にされていたおキイと鈴村を助けたことから殺されてしまう。怒りが頂点に達したお竜と常次郎は遂に、鮫州一家に乗り込んでいくのだった。


 東映の任侠映画シリーズには、各々メイン監督が存在する。その監督の持ち味がシリーズの特長となり、顔となっている。例えば、「博徒」の小沢茂一、「日本侠客伝」のマキノ雅弘、「昭和残侠伝」の佐伯清…といった具合で、同じストーリーなのだが、その安心感で観客は熱狂し、惜しみない拍手を送ったのであった。しかし、「緋牡丹博徒」シリーズは、作品ごとに監督を変える事で、藤純子演じる主人公と主要キャラクターが同じという条件だけで、雰囲気の違う作品に仕上げているのが特長だ。ハリウッドが「エイリアン」シリーズを毎回違う監督で作らせて新しい世界観を打ち出す事に成功しているが、既に日本ではこの手法を実践し成功していたのである。1作目を山下耕作、2作目を鈴木則文、7作目の本作は、シリーズ中、最も多い3作品を手掛けた加藤泰監督が務めている。加藤監督と言えば、3作目の「花札勝負」の評価が高いが、筆者は迷う事無く本作…「お竜参上」を選ぶ。終盤に近づいた本作で加藤監督はあえて、3作目の正統な続編として物語を作り上げた。これは自身が作り上げた前作へのオマージュでもあり、中途半端な形で前作の物語を終わらせたくないという思いの表れではなかろうか?前作でお竜の名を騙った女賭博師お時の一人娘お君と再会、そして彼女を取り巻く悪と善が入り乱れるドラマが展開される。シリーズの中でもキャラクターの数が多い本作は藤純子以外にも脇役の好演が特に光った作品だと思う。菅原文太と嵐寛寿郎の魅力が最大限に発揮されていたのは言うまでもないが、名も無い脇役に至るまで素晴らしい演技を披露してくれていた。
 単純だから面白い―様々な人間ドラマが複雑に絡み合う群像劇の様相を呈している本作。浅草六区を舞台とし、芝居小屋を仕切る鉄砲久一家と敵対する鮫洲一家、そして芝居に情熱を燃やす者がいるかと思うと、芝居小屋でスリを働く集団がいたり…その中心にお竜がいて大事なところで仲介役を務める。お竜が主役でありながら、いくつかの物語が存在するといった珍しい構成も本作の魅力である。その最たる場面は何と言っても、偶然にも鉄砲久一家で巡り会えたお竜とお君の7分にも及ぶ長回しの場面であろう。この場面ではお竜とお君を中心に総勢14名の役者がフレームの中に収まっており、誰もが鬼気迫る名演技を見せてくれる。加藤監督の上手いところは、こうした長回しの中で一気に状況説明を行ってしまう事だ。観客も俳優たちの真剣な演技に圧倒されている間に、すっかり全ての状況を理解してしまう。一歩間違えると間延びしたつまらない画になってしまうところを、息する事すら忘れてしまう程、観客を入り込ませてしまうのが名人たる由縁だろう。そして、もうひとつ是非とも語りたい事…本作には2つの橋が見事なセットで出て来る。亡き妹の遺骨を故郷に戻すため旅に出る菅原文太演じる常次郎とお竜が粉雪が舞う中、別れを惜しむ今戸橋。クライマックスでお竜の助っ人となって、
鮫洲一家の元へ赴くかっぱ橋。特に前半の今戸橋のシーンは、様式美を意識したと言われる美術監督の井川徳道によるセットが素晴らしく、本作で美術賞を獲得したのも大いに頷ける。監督が変わる事で、描き出す視点が変わり、お竜の魅力も描き方も全く異なる…これが「緋牡丹博徒」の面白さなのだ。

鉄砲久の代わりに盗まれた権利書を取り戻しに行ったお竜は渡世人らしく盆の上の勝負を挑み「お前さんは何を賭けるんだ?」という鮫洲政の問いに、しっかりと目を見据えて「命ばい…」と言い切る。藤純子のカッコ良さが炸裂する場面だ。


レーベル: 東映ビデオ(株)
販売元: 東映ビデオ(株)
メーカー品番: DCTD-2361 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 2,835円 (税込)

昭和38年(1963)
人生劇場飛車角
人生劇場
・続飛車角

昭和39年(1964)
人生劇場
・新飛車角
日本侠客伝

昭和40年(1965)
網走番外地
昭和残侠伝
網走番外地
・北海篇
・望郷編
続・網走番外地
日本侠客伝
・関東篇

・浪花篇
明治侠客伝
/三代目襲名

昭和41年(1966)
網走番外地
・南国の対決
・大雪原の対決
・荒野の対決
昭和残侠伝
・一匹狼
・唐獅子牡丹
日本侠客伝
・雷門の決斗

・血斗神田祭

昭和42年(1967)
網走番外地
・決闘零下30度
・悪への挑戦
・吹雪の斗争
昭和残侠伝
・血染の唐獅子
博奕打ち
・一匹竜
・不死身の勝負
侠骨一代
日本侠客伝
・斬り込み
・白刃の盃

昭和43年(1968)
緋牡丹博徒
・一宿一飯
人生劇場
・飛車角と吉良常

新網走番外地
博徒列伝
博奕打ち
・総長賭博
・殴り込み
日本侠客伝
・絶縁状

昭和44年(1969)
昭和残侠伝
・唐獅子仁義
・人斬り唐獅子
緋牡丹博徒
・花札勝負
・鉄火場列伝
・ 二代目襲名
博奕打ち
・必殺
日本侠客伝
・花と竜

昭和45年(1970)
昭和残侠伝
・死んで貰います

緋牡丹博徒
・お竜参上

博奕打ち
・流れ者
日本侠客伝
・昇り龍

昭和46年(1971)
昭和残侠伝
・吼えろ唐獅子
緋牡丹博徒
・仁義通します
・ お命戴きます
博奕打ち
・いのち札
日本侠客伝
・刃

昭和47年(1972)
関東緋桜一家
昭和残侠伝
・破れ傘
博奕打ち
・外伝



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