古都
京の四季を鮮やかに彩る娘ごころ…

1963年 カラー シネマスコープ 105min 松竹(京都撮影所)
製作 桑田良太郎 監督 中村登 原作 川端康成 脚本 権藤利英 撮影 成島東一郎
音楽 武満徹 美術 大角純一 録音 福安賢洋 照明 佐野武治 編集 相良久
出演 岩下志麻、宮口精二、中村芳子、長門裕之、東野英治郎、早川保、吉田輝雄、柳永二郎
環三千世、浪花千栄子、田中春男、千之赫子


 本作は文豪川端康成が朝日新聞に長期にわたって連載された、詩情豊かな名作を映画化したもので、中村登監督が初めて川端文学に取り組んだ作品である。花ふり、緑さす京都を舞台に、双子の姉妹とそれをとりまく人々の心模様が中村監督独特の流麗な演出で描かれ、華やかな作品に仕上げられた。双子の姉妹には、中村監督とは『智恵子抄』『紀ノ川』などの作品に主演を果たした岩下志麻が扮し、初の二役に意欲を燃やして、その魅力をあますことなく演じた。特に苗子の素朴な雰囲気を出すためにあえてノーメイクで挑み、頬にふくみ綿を入れる等、細部に変化をつけた。彼女の恋人役二枚目スターの吉田輝雄と長門裕之が起用され、他に、宮口精二、東野英治郎、浪花千栄子…といったベテランが華をそえている。春の平安神宮、清水寺…夏の祇園祭、秋の時代祭など、名所古跡と京都の風物を追い続けた成島東一郎カメラマンの腕も冴え渡り、まさにカラー作品としての見事な映像美が讃えられ、余韻を残す名作として好評を得た。また、その年のカデミー外国語映画賞にノミネートされるなど作品のグレードの高さがここからもうかがえる。


 呉服問屋の一人娘として何不自由なく育った知重子(岩下志麻)は、店の前のべんがら格子の下に捨てられていた捨て子だった。義理の両親は、彼女を捨て子だったとは言わず、あまりの可愛さから赤子の彼女を誘拐して育てたと言い、細やかな愛情で育ててきたのだった。父の太吉郎(宮口精二)は名人気質の人で、ひとり嵯峨の寺にこもって反物の下絵を描いていた。西陣の織屋の息子秀男(長門裕之)は秘かに千重子を慕っており、見事な帯を織り上げて太吉郎を驚かした。ある日千重子は、清滝川に沿って奥へ入った北山杉のある村を訪ねた。そして杉の丸太を磨いている女達の中に自分そっくりの顔を見い出した。彼女の面影を忘れる事が出来ないまま月日が経ち、夏がやって来た。祇園祭の谷山に賑う四条通を歩いていた千重子は北山杉の娘苗子(岩下志麻二役)に出会った。苗子は千重子を見るなり「あんた姉さんや」と声をふるわせた。千重子と苗子は双子の姉妹だったのだ。しかし、実際の父も母もすでにこの世にはおらず、苗子は千重子と身分の違いを思い雑踏に姿を消した。その苗子を見た秀男が千重子と間違えて、帯を織らせてくれと頼むのだった。一方自分の数奇な運命に沈む千重子は、四条大橋の上で真一に声をかけられ兄の竜助(吉田輝雄)を紹介された。八月の末、千重子は苗子を訪ねた。どんなに否定しようとも姉妹の実感がひしひしと迫っていた二人は再会を喜んだ。秋が訪れるころ、秀男は千重子に約束した帯を苗子のもとにとどけ、時代祭の日に再会した苗子に結婚を申し込む。しかし、苗子は秀男が自分の中に千重子の面影を求めていることを知っていた。冬のある日、以前から千重子を愛していた竜助が太吉郎を訪ねて求婚し、翌日から経営の思わしくない店を手伝いはじめた。その夜、苗子が泊りに来た。二階に並べた床の中で千重子は苗子に秀男との結婚を薦めるのだった。雪がうっすらと道を覆った翌朝、やはり生きて来た世界の違いを悟った苗子は二度と千重子の家に来ないと誓い京の街を走り去っていった。


 この作品の岩下志麻を見ずして彼女の魅力は語れない…特にデビューして二十代前半の純情な岩下志麻に“可憐な”イメージを添えたのが本作であり、娘役の時代でも代表作にして最高傑作と言っても過言ではなかろう。本作は川端康成の同名小説の映画化で生き別れた双子の姉妹が偶然出会う事によって織り成す人間関係を優雅なタッチで描かれている。昭和30年代、四季折々の京都の街に、まだあどけなさの残る岩下志麻が和服姿ですっ…と美しい出立ちで佇む姿を見て、正直鳥肌が立った。岩下志麻の端正な顔立ちは、京の夕暮れ時に見事に映えるのだ。祇園の街を歩く姿は、まるで日本の美人画を見ているようで、街の絵柄に溶け込んで、正に一体化しているのだ。文芸作品を撮らせたら日本映画界屈指の中村登監督は、さすが岩下志麻と数々の名作を作り続けているだけに、彼女をどの角度からどのように撮れば美しく映えるかを熟知しているようだ。また、映画全体を夕暮れをイメージさせるオレンジ掛かった色調で、古い街と和服姿の彼女をひとつの画として融合させてしまった。裕福な呉服問屋で育てられた知重子と北杉山の村で地道に暮す苗子…生きて来た世界の異なる二人の娘を一人二役で演じた、美しい岩下志麻を余す事無く堪能出来る贅沢さ。山奥にある小さな村で汗を流して働く苗子は、あえてメイクを変えて自然な美しさを醸し出していたのが印象に残る。さすが、女性を描く事にかけては日本映画屈指と言われている中村監督の繊細なタッチは、血がつながっていながらも同じ世界では生きられない姉妹の心境を詩情豊かに映像化している。特に、ようやく姉妹として再会出来たものの、あまりにも二人の歩んで来た人生が違うため苗子は「また来てくれるわね?」と再会を望む知重子の言葉に首を横に振り雪の街を走り去っていくラストシーンは、原作を超えた…と、言っても良いかも。
 中村監督とコンビを組んで来たカメラマン成島東一郎が映し出す映像はあまりにも美しく、岩下志麻の美しさを引き出すだけではなくタイトルとなっている古都の街を今まで観た事のないような切り口で映像化している。特に、知重子が自らの生い立ちを語る背景に清水寺が夕日を浴びて映っているシーンは、壮大かつ幻想的な雰囲気に圧倒された。あれほど見慣れた有名なお寺が、ここまで幻想的に映し出された事は、後にも先にも無いと思う。また苗子と初めて出会う北杉山のシーンで、山一面に生えた杉が風にたなびく情景が素晴らしく、ここで育った苗子の優しい人柄が自然の風景から想像出来るのが凄い。京都の街というのは、それほど時代による変化というのは無いだろうと、思っていたら微妙に様子が現在と変わっているのを見つけるだけでも楽しい。本作における、もうひとつの主人公は紛れも無く京都…という街そのものであり、この街自体を美しくスクリーン上で再現出来なければ本作は失敗に終わったであろう。平安神宮に始まり、宮口精二演じる義父が籠って反物の下絵を描いているお寺の離れ…そこに老舗の湯豆腐を買って訪れる岩下志麻、こうした風物が静かな川の流れのように映像の中に挿入されてくる。街を撮影するにもただカメラを廻すだけでは駄目なのだ。ひとつの建物をどの角度からどんな日差しの中で撮影するか?こうした綿密なロケハンと計算からスクリーン上に描き出される京都の世界は、現実のものとは思えない程美しい。余談ではあるが、本作の予告編は完成度の高いひとつの作品として機会があれば是非観てもらいたい。予告編のバックに使われている“《魔笛》の主題による変奏曲”は夕暮れに浮かぶ京の街並にピッタリとマッチしている。

「ここから京の街の夕暮れを見たかったの。入り日の西山の空を見たかったの…」筆者が一番好きな場面…清水寺で、岩下志麻が遠くの空を見つめながら優しく語る。京都弁のセリフのひとつひとつが切なく儚気なのだ。


レーベル: 松竹(株)
販売元: 松竹(株)
メーカー品番: DA-474 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 3,591円 (税込)

昭和35年(1960)
秋日和

昭和36年(1961)

あの波の果てまで
好人好日
京化粧

昭和37年(1962)
千客万来
切腹
秋刀魚の味  

昭和38年(1963)
古都
風の視線
島育ち
結婚式・結婚式
結婚の設計

昭和39年(1964)
いいかげん馬鹿
暗殺
五辧の椿
大根と人参

昭和40年(1965)
雪国
暖春

昭和41年(1966)
春一番
暖流
紀ノ川
処刑の島
おはなはん

昭和42年(1967)

春日和
智恵子抄
激流
あかね雲
女の一生

昭和43年(1968)
爽春
祇園祭

昭和44年(1969)
心中天網島
赤毛

昭和45年(1970)
無頼漢
影の車

昭和46年(1971)
内海の輪
婉という女
黒の斜面
嫉妬

昭和47年(1972)
影の爪

昭和49年(1974)
卑弥呼

昭和50年(1975)
桜の森の満開の下

昭和51年(1976)
はなれ瞽女おりん

昭和53年(1978)
雲霧仁左衛門
鬼畜

昭和56年(1981)
悪霊島

昭和57年(1982)
鬼龍院花子の生涯
疑惑

昭和59年(1984)
北の螢

昭和60年(1985)
魔の刻
聖女伝説

昭和61年(1986) 
近松門左衛門鑓の権三
極道の妻たち

昭和63年(1988)
桜の樹の下で

平成2年(1990)
極道の妻たち
 最後の戦い
少年時代

平成3年(1991)
新極道の妻たち

平成5年(1993)
新極道の妻たち
 覚悟しいや

平成6年(1994)
新極道の妻たち
 惚れたら地獄

平成7年(1995)
極道の妻たち
 赫い絆
鬼平犯科帳

平成8年(1996)
霧の子午線
極道の妻たち
 危険な賭け

平成10年(1998)
極道の妻たち 決着

平成15年(2003)
スパイ・ゾルゲ



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