いいかげん馬鹿
追われても、笑われても、又故郷に舞い戻る!この迷惑さ、純情さ!

1964年 カラー ワイド 86min 松竹(大船撮影所)
製作 脇田茂 監督、脚本 山田洋次 脚本 熊谷勲、大嶺俊順 撮影 高羽哲夫 音楽 池田正義
美術 浜田辰雄 録音 松本隆司 照明 戸井田康国 編集 浦岡敬一 スチール 長谷川宗平
出演 ハナ肇、岩下志麻、花澤徳衛、桑山正一、松村達雄、殿山泰司、石黒達也、犬塚弘、渡辺篤
荘司肇、水科慶子、山本幸栄、織賀邦江、谷晃、土紀洋児、川村禾門


 松竹にて下町人情劇を中心に手掛けて来た山田洋次が初めて喜劇の監督をした前作「馬鹿まるだし」が作品的にも興行的にも好評だったのを受けて製作された『馬鹿』シリーズ第二弾。前作ではお人好しで暴れん坊だったハナ肇扮する主人公が、本作では失敗しても馬鹿にされても故郷のために尽くす男を演じ、瀬戸内海の風光明媚な島を舞台に大暴れを繰り広げる。この故郷に対する錦を飾る主人公の願望が、後の『男はつらいよ』の主人公―車寅次郎―につながっていく。脚本を山田洋次と共に「下町の太陽」の熊谷勲と大嶺俊順が共同で執筆。黒潮の伊豆海岸、堂ヶ島において長期ロケーションを敢行し、撮影は後に山田洋次監督とはずっとコンビを組んでゆく高羽哲夫が担当。瀬戸内の美しい自然を余す事無くカメラに収めている。また、前作のナレーションが植木等だったのに対し、本作では主人公の初恋の人で幼なじみを演じる岩下志麻が担当。山田監督は本作の演出に当たり馬鹿馬鹿しい人間が持っている純粋さを前作とは異なる風景の中で描きたかった…と、述べている。ここでの一貫したテーマはいずれも故郷に対する郷愁であり、それらを情緒とは無縁そうな破天荒な主人公が抱く事による可笑しさを描き出そうとしていた。


 源太爺さん(花澤徳衛)に拾われた捨て子の安吉(ハナ肇)は、瀬戸内海の平和な島で自由気ままに育った。そのころ疎開してきた少女弓子(岩下志麻)は、安吉にとって高嶺の花のアイドルであった。ある日安吉は急な病で母親を亡くしたばかりの弓子を励まそうと海に小舟をのりだし海の底の魚を見せてあげようとしたのだが、舟が沖に流され小島に取り残されてしまう。通りがかった舟に救出されたものの安吉は源太爺さんにこっぴどく怒られ島を逃げ出してしまう。それから十年、弓子は岡山の大学に通学し、安吉は三流楽団を引き連れて帰ってきた。しかし安吉はインチキ楽団といかがわしいショウですっかり信用をおとしてしまう。そんな頃、源太爺さんの弟茂平がブラジルで成功して帰ってきた。安吉は一緒にブラジルへ行く気になるのだが、捨て子の彼には戸籍が無いため渡航は出来なかった。引込みがつかなくなった安吉は、密航を企てたが失敗。それから一年安吉は高名な小説家舟山(松村達雄)を連れて帰って来た。その後、舟山が書いたドラマに島が紹介されたため、島はレジャーブームでわきかえってしまう。勢いづいた安吉は底をガラス張りにした違法な観光船をつくったがそれが沈んでしまい、またまた島を逃げ出した。時が流れ、島は安手な観光地に変っていった。小学校の先生となった弓子は修学旅行で大阪に行き、水中メガネを売る安吉の姿をみつけた。安吉の首には弓子が贈った赤いスカーフがまかれ、今も変わらず破天荒な生活を続ける安吉を弓子は温かく見守るのだった。


 山田洋次監督が『男はつらいよ』シリーズの前身となるべくハナ肇扮するいいかげんな男が故郷に帰って来ては巻き起こすドタバタ劇を描いたコメディー。瀬戸内の美しい漁村が舞台の本作は、スクリーンに映し出される風光明媚な映像を観ているだけでも楽しくなる。寅さんのように、戻って来ては周囲に迷惑をかけまくり、嵐のように去ってく…そんな、どうしようもない奴をハナ肇は活き活きと演じている。冒頭のタイトルバックに出て来る子供の絵と“ふるさと”の歌が郷愁を誘い、この作品から人情喜劇という山田洋次監督お得意のスタイルが確立されたと言っても過言ではないだろう。何しろ、この主人公は、失敗しては島から逃げ出すくせに、何年かするとヒョッコリ戻って来る。まるで、以前の失敗を償おうとするかの如く、大風呂敷を広げて戻って来るあたりは、どうしても憎み切れないキャラクターなのだ。そんな彼が、島に戻る度に、まるでテーマソングのように歌っている“ふるさと”も故郷に錦を飾りたいという彼の気持ちの表れとして使用されている。そんな彼を島の住人たちは、呆れながらも毎度温かく迎え入れてやるのは、正に葛飾柴又に舞い戻って来る寅次郎を温かく迎える叔父ちゃん叔母ちゃんであり、タコ社長であったりするのだ。そして、本作で彼の姿を幼い頃から見守り続けている岩下志麻演じる弓子は、さしずめ桜の役どころ…の原点といったところだろうか?安吉から「お嬢さん」と呼ばれ続ける二人の間には恋愛感情は存在しないのがポイントだ。現代では理解しにくいだろうが、当時まだ世間的な階級の差がハッキリとしていたためか弓子の視線は明らかに安吉を上から見ている状態だ。勿論、安吉には弓子へのあこがれが存在しただろうが、ここでは一切描かれていない。むしろ山田監督は、そうした色恋事を排除する事で安吉の無謀さの向こうに垣間見える従順なピュアな心を打ち出したかったのかも知れない。
 弓子を演じる岩下志麻の作品経歴にとっては、本作を代表作に数える事はまず無いであろう。本作は当時のスターシステムにおける松竹の出演作品の一本であり取り立てて目新しいものは存在しない。しかし、内地の人間でありながら、島の暮しに馴染んで、ずっと安吉が馬鹿をやる度(時には馬鹿をやりそうな直前に…)先生のように嗜める姿は、他の作品では観る事が出来ない。彼女が喜劇に出演した作品も本作以外に殆どなく、走り回るハナ肇の横で、ニコリともビックリもせずに立ちすくむ彼女のツーショットを見ているだけで笑いがこみ上げて来るのだから、もう少し喜劇に出て欲しかった。ところが、つい最近…といっても、平成に入ってからだが、象印のCMでニコリともしない岩下志麻が研究員から商品の説明とCMの説明を淡々と聞いているシリーズがあったのを御記憶だろうか?まさにキレイな顔立ちで冷ややかな表情を浮かべた彼女の面白さが全開となったCMである。本作から数えて30年以上が経過して、岩下志麻のコメディーリリーフとしての面白さを再認識出来たのが嬉しい出来事だった。…余談である。

「村の古老たちの話しでは、この島で刃傷沙汰が起きたのは、まさに明治維新以来だということでした」平穏な島で安吉が連れて来た楽団の踊り子同士が刃物を持って追いかけ回す場面での淡々とした岩下志麻のセリフが最高に笑える。


レーベル: 松竹(株)
販売元: 松竹(株)
メーカー品番: DA-696 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 3,591円 (税込)

昭和35年(1960)
秋日和

昭和36年(1961)

あの波の果てまで
好人好日
京化粧

昭和37年(1962)
千客万来
切腹
秋刀魚の味  

昭和38年(1963)
古都
風の視線
島育ち
結婚式・結婚式
結婚の設計

昭和39年(1964)
いいかげん馬鹿
暗殺
五辧の椿
大根と人参

昭和40年(1965)
雪国
暖春

昭和41年(1966)
春一番
暖流
紀ノ川
処刑の島
おはなはん

昭和42年(1967)

春日和
智恵子抄
激流
あかね雲
女の一生

昭和43年(1968)
爽春
祇園祭

昭和44年(1969)
心中天網島
赤毛

昭和45年(1970)
無頼漢
影の車

昭和46年(1971)
内海の輪
婉という女
黒の斜面
嫉妬

昭和47年(1972)
影の爪

昭和49年(1974)
卑弥呼

昭和50年(1975)
桜の森の満開の下

昭和51年(1976)
はなれ瞽女おりん

昭和53年(1978)
雲霧仁左衛門
鬼畜

昭和56年(1981)
悪霊島

昭和57年(1982)
鬼龍院花子の生涯
疑惑

昭和59年(1984)
北の螢

昭和60年(1985)
魔の刻
聖女伝説

昭和61年(1986) 
近松門左衛門鑓の権三
極道の妻たち

昭和63年(1988)
桜の樹の下で

平成2年(1990)
極道の妻たち
 最後の戦い
少年時代

平成3年(1991)
新極道の妻たち

平成5年(1993)
新極道の妻たち
 覚悟しいや

平成6年(1994)
新極道の妻たち
 惚れたら地獄

平成7年(1995)
極道の妻たち
 赫い絆
鬼平犯科帳

平成8年(1996)
霧の子午線
極道の妻たち
 危険な賭け

平成10年(1998)
極道の妻たち 決着

平成15年(2003)
スパイ・ゾルゲ



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