はなれ瞽女おりん
この愛は女が一生見ることのできなかった美しい光景の中へ溶け込むように消えていった。

1977年 カラー シネマスコープ 117min 表現社
製作 岩下清、飯泉征吉 監督、脚本 篠田正浩 原作 水上勉 脚本 長谷部慶次 撮影 宮川一夫
音楽 武満徹 美術 栗津潔 録音 西崎英雄 照明 佐野武治 編集 山地早智子
出演 岩下志麻、原田芳雄、奈良岡朋子、神保共子、横山リエ、宮沢亜古、中村恵子、殿山泰司、原泉
桑山正一、樹木希林、小林薫、西田敏行、嶺川貴子、不破万作、山谷初男、安部徹、浜村純、加藤嘉


 三味線を弾き、瞽女唄を歌いながら門付けをして歩く盲目の女旅芸人“瞽女(ごぜ)”を扱った、水上勉による同名原作を映画化。当時、生存していた3人の高田瞽女で絶えると言われているため、瞽女唄を聞ける最後の映画であった。仲間からはなれ、一人で門付けをしている主人公おりんを岩下志麻が演じ、見事本作で日本アカデミー最優秀主演女優賞を獲得した。殺人犯として警察に追われている男原田芳雄を配して二人の旅する姿を描いている。「これは日本人の原風景だ。私は失われた日本への哀切感が、この映画を作るバネだと感じている」と語る篠田正浩監督が、自身が運営する独立プロから久しぶりの大手メジャー作品のメガホンを取った。撮影は『無法松の一生』『羅生門』など数々の名作を手がけてきた大ベテランのカメラマン宮川一夫。上越市周辺と佐渡を始めとする80カ所にも及ぶ場所で長期ロケーションを敢行し、日本に残る美しい風景がファインダーに収められている。撮影中、涙を流しながらファインダーをのぞいていた宮川カメラマンは本作を「これは私の遺言状だ」と語っていた。また、古くからある重厚な日本家屋を見事に再現したのは美術の栗津潔の手による。


 大正七年、春まだ浅い山間の薄暮、おりん(岩下志麻)は、破れ阿弥陀堂で平太郎(原田芳雄)という男に出会った。翌日から、廃寺の縁の下や地蔵堂を泊り歩く二人の旅が始まった。木賃宿の広間で、漂客や酔客相手におりんが「八百屋お七」を語っている時、平太郎は客に酒を注いだり、投げ銭を拾い集めていた。またある夜には、料理屋の宴席で「口説き節」を唄うおりんの声を聞きながら、平太郎は勝手口で、下駄の鼻緒のすげかえをすることもあった。それからも平太郎は、大八車を買入れ、おりんと二人の所帯道具を積み込んで、旅を続ける。そんな時、柏崎の薬師寺で縁日が開かれた。露店が立ち並ぶ境内の一隅に、下駄を作る平太郎と、できあがった下駄をフクサで磨きあげるおりんの姿があった。しかし、札をもらわずに店をはったという理由で、平太郎は土地のヤクザに呼び出される。平太郎が店を留守にした間に、香具師仲間の一人である別所彦三郎(安部徹)に、おりんは松林で帯をとかれていた。松林の中で、すべてを見てしまった平太郎は逆上し、別所をノミで刺し殺してしまう。やがて、渚に座りこんだままのおりんに平太郎は「また一緒になるから、当分別れてくらそう」と言い残すと姿を消した。おりんは黒川の六地蔵で出会ったはなれ瞽女のおたま(樹木希林)と共に、旅を続けていた。ある日、若狭の片手観音堂に来ていたおりんは境内で平太郎と再会する。しかし、平太郎は別所殺しの殺人犯と福井県鯖江隊所局の脱走兵として追われていた。再会したその夜、おりんは初めて平太郎に抱かれ、一瞬だが二人は幸せを噛み締めていた。


 女優、岩下志麻の才気を一気に押し出した篠田正浩渾身の一作。彼女の女優人生は本作のためにあったのではないか?とさえ思えた。スクリーンに映し出される岩下志麻のアップが、これほどまでに美しさと儚さを感じさせた映画は他にあっただろうか。そして、ぼろぼろの衣裳を身にまとい、盲目で杖をつきながら歩く姿に妖艶さを併せ持つ…そんな女優って他にいるだろうか?この作品に全てを出し切った岩下志麻が演じているのは、孤独の中で逞しく生きている女だ。大正時代―近代の波が押し寄せ軍国主義のきな臭い時代に貧困の中で生まれつき目が見えないというハンデを背負いながらも互いに肩寄せ合って力強く生きている瞽女たち。主人公おりんは、掟を破り追い出されたはぐれもの…それを称して“はなれ瞽女”と呼んでいる。篠田監督は実在した瞽女たちの生き様を、岩下志麻演じる主人公のみに焦点を当てる事によって、その時代の風俗や風物詩を含めて見事に描き出している。雪が降り積もり、冷たい足をこまめに動かしながら一列になって歩く瞽女たち。遠くに北陸の険しい山々が連なっているのが見える…そんな美しい映像を見事にフレームに収めたのは名匠宮川一夫カメラマンの手によるもの。北国の厳しい自然や荒々しい日本海などを背景に繰り広げられるからこそ、より深い人間ドラマとなり得たのであろう。オールロケーションにこだわり、日本全国を巡って探し出した甲斐あって「こんな風景が日本にまだ残っていたのか」とため息をつくばかりだ。
 そして、もうひとつ忘れてはならないのが、今や日本に三人しか残っていない瞽女たちの唄声を聞ける事だ。雪深く閉ざされた農家の村を渡り歩き、唯一の娯楽である三味線を披露してきた彼女たちが、本当に昔話の一節となってしまうのは何とも言えない寂しさを感じる。ただ彼女たちが瞽女として生きてきたのは、望んでそうなったわけでは決してない。盲目の彼女たちを助けてくれる手が差し伸べられなかったという当時の現実の中で手段として選んだのが瞽女だったのだ。前半、おりんがまだ子供の頃足が凍傷でひび割れ、泣きながらも生きるために歩かなくてはならない場面がある。「めくらの女が生きていくためには女郎をするかあんまになるしか道がない」と、言われていた時代に同じ境遇の女性たちが肩寄せ合い生きている姿を見ると、男なんか所詮は弱い生き物だなぁ…とつくづく感じる。後半、岩下志麻と旅先で知り合った原田芳雄演じる正体不明の男(実は兵役を逃れるための脱走兵で途中殺人まで犯してしまう)と二人で大八車におりんを乗せて旅をする。おりんは、いつしかこの男に愛情を求めるようになるのだが…ところが男は、二人の関係を崩したくないからとおりんの求めを拒絶する。その後、おりんは男を兄ちゃんと呼び、その先に待つ悲劇を感じつつもささやかな愛を育んでいく。この二人の姿があまりにも儚く、だからこそ美しく感じるのだ。また、『雪国』の時と同様に岩下志麻の話す上越弁というのが実に心地良く耳に届き、一言一言噛み締めるようにしゃべるセリフに、おりんの明るく爽やかな人格が表れている。脱走兵である男が遂に警察に捕まり、最後の時におりんと牢屋の小窓越しに再会する場面がある。小窓の向こうに見える岩下志麻の顔には、うっすらと笑みがたたえられていて、それが正に菩薩のよう…そうだ!岩下志麻にこの表情をさせることが出来た事によって、この映画の完成度を高めたに違いない。

「オラの身体、こんげに冷えとるのに何で温めてくれんのじゃ」おりんが、自分の感情を包み隠さず男にぶつけるシーンのセリフ。岩下志麻って凄い女優と感じさせてくれるシーンだ


レーベル: 東宝(株)
販売元: 東宝(株)
メーカー品番: TDV-15181D ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 4,253円 (税込)

昭和35年(1960)
乾いた湖
笛吹川
秋日和

昭和36年(1961)

あの波の果てまで
好人好日
京化粧

昭和37年(1962)
千客万来
切腹
秋刀魚の味  

昭和38年(1963)
古都
風の視線
島育ち
結婚式・結婚式
結婚の設計

昭和39年(1964)
いいかげん馬鹿
暗殺
五辧の椿
大根と人参

昭和40年(1965)
雪国
暖春

昭和41年(1966)
春一番
暖流
紀ノ川
処刑の島
おはなはん

昭和42年(1967)

春日和
智恵子抄
激流
あかね雲
女の一生

昭和43年(1968)
爽春
祇園祭

昭和44年(1969)
心中天網島
赤毛

昭和45年(1970)
無頼漢
影の車

昭和46年(1971)
内海の輪
婉という女
黒の斜面
嫉妬

昭和47年(1972)
影の爪

昭和49年(1974)
卑弥呼

昭和50年(1975)
桜の森の満開の下

昭和51年(1976)
はなれ瞽女おりん

昭和53年(1978)
雲霧仁左衛門
鬼畜

昭和56年(1981)
悪霊島

昭和57年(1982)
鬼龍院花子の生涯
疑惑

昭和59年(1984)
北の螢

昭和60年(1985)
魔の刻
聖女伝説

昭和61年(1986) 
近松門左衛門鑓の権三
極道の妻たち

昭和63年(1988)
桜の樹の下で

平成2年(1990)
極道の妻たち
 最後の戦い

少年時代

平成3年(1991)
新極道の妻たち

平成5年(1993)
新極道の妻たち
 覚悟しいや

平成6年(1994)
新極道の妻たち
 惚れたら地獄

平成7年(1995)
極道の妻たち
 赫い絆
鬼平犯科帳

平成8年(1996)
霧の子午線
極道の妻たち
 危険な賭け

平成10年(1998)
極道の妻たち 決着

平成15年(2003)
スパイ・ゾルゲ



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