日本人離れしたボディーで、いきなり日本のグラビア界を席巻してしまったかたせ梨乃。まだ、巨乳なんて呼称が存在しなかった時代“11PM”のカバーガールとしてブラウン管(淫美な深夜番組にこそブラウン管という響きが相応しい…)に登場した彼女の肢体に、親に隠れて音量をしぼって見ていた青少年は何人いただろうか。それまでのグラビアセクシーモデルと言えばアグネス・ラムであり、日本人であのグラマラスなボディを有しているなんて、奇跡のような出来事であった(ちょっと大袈裟過ぎる?)。比較的裕福な家庭のボンボンは、まだ目新しいビデオデッキなるものを所有しており、テープに録画しまくって夜のお供にしていた。それが叶わぬ若者たちは“平凡パンチ”や“GORO”のグラビアページをストック…現在のようにイメージビデオなんてものは流通していなかったので、ここまでは言葉を一切発しないセクシーモデルであった。初めて彼女の声を聞いたのは“11PM”初登場から数ヶ月を過ぎてから…鼻にかかったハスキーボイスは、正にイメージ通り…ちょっと蓮っ葉な姐御という雰囲気が、その後の彼女の芸能活動に大きく役に立つ事になろうとは誰が予想したであろうか。
 かたせ梨乃が映画デビューを飾った『犬笛』は、取り立てて重要な役でもなかったので殆ど印象には残っていないだろうが、テレビの時代劇でレギュラーだった『隠密同心大江戸捜査網』の映画版から、いくつかの脇役を経て、遂に、彼女持ち前のボディとハスキーボイスを最大限に活かした役を獲得する。つかこうへい原作・筒井和幸監督作品のコメディ『二代目はクリスチャン』の中で岩城晃一演じる天竜組二代目組長の情婦で、志保美悦子扮する主人公のシスターを罠に陥れるしたたかな女だ。愛する男に棄てられた恨みをネチネチとぶつけながらも自分の本心は無表情の仮面の奥底に秘めた難しい役を見事にこなしていた。本作の好演によって単なるセクシーなだけのグラビア女優ではないことを予感させたかたせ梨乃…。その演技が認められたのか遂に準主役の座を射止めたのが五社英雄監督作品『極道の妻たち』。本作でも、世良公則扮するヤクザの男を愛してしまい人生を大きく変えてしまう女性を演じている。また、この映画の出演は彼女自身の大きな転機ともなった。それは、岩下志麻との共演である。
 『極道の妻たち』シリーズは、女優かたせ梨乃を世に知らしめるには充分の大ヒットを記録し、通算15本製作された作品の内、出演本数は岩下志麻とならぶ8作品。1作目の演技を認められ、その年の日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞する。この第1作目の出演オファーがあった昭和61年(28歳の頃)はかたせ梨乃にとって女優としての岐路に立っている頃だったという。劇中、岩下志麻の実妹を演じるにあたり「失敗したら女優をやめようと思っていた」と後日その胸中を語っていたが、その覚悟は、しっかりと演技のひとつひとつに表れていた。最後の映画のつもりでシナリオを読み込み、丁寧に役作りの時間を設けただけに、正に捨て身の演技として画面から鬼気迫る気迫が伝わってくる。極道の妻となった姉に反発して貧しいながらも、ひたむきに生きていたが姉の組と敵対している側の男を好きになり、破局へと突き進んでゆく姿が切ないのだが一本芯の通った強さを感じさせた。「このシリーズが、私の女優としての運命を変えた」という言葉通り、殆ど全シリーズ(最近の高島礼子版を除く)に出演して彼女にとって第1期の4作『極道の妻たち』『極道の妻たちII』『極道の妻たち 三代目姐』『極道の妻たち 最後の戦い』全てが異なった役であり、五社英雄、降旗康男、山下耕作監督といったベテラン監督に指導を受けたというのが大きな財産となった。更に岩下志麻、三田佳子、十朱幸代といった日本を代表する女優たちと共演出来るチャンスに恵まれたのも大きい。最初の頃、岩下志麻との共演シーンで何度もNGを連発してしまった…というのも無理はない。にも関わらず、最後まで何も言わずに付き合ってくれたという器の大きさに偉大な女優の姿を垣間見たという。
 『極道の妻たち』の好評を得て、次に挑戦したのが『肉体の門』。戦後間もない日本で自らの身体をGIに売って生計を立てている主人公―売春婦のリーダーを熱演。それこそ文字通り、体当たりの演技で他の売春組織のリーダー名取裕子とタイマンを張るシーンや全裸での絡みのシーンを堂々とこなし、『極道の妻たち』の好演がまぐれではなく、また単なるセクシーさを売り物にしたグラビア女優ではないことを実証させた。この映画で、アメリカ人やヤクザを相手に一歩も引けを取らない態度で渡り歩く女を演じるには、彼女も持つ独特なハスキーボイスが必要だったのだろう。売春婦たちが根城にしている廃墟にまで乗り込んで手中に収めようとするヤクザたちに啖呵を切って追い返す姿は、実にカッコいい。『肉体の門』に続いて『吉原炎上』『東雲楼女の乱』と生きるために身体を売る女性を演じるかたせ梨乃。弱者い立場でありながら彼女が演じるとその中に力強さを伴い、だからこそ多くの女性たちの共感を得られるのだろう。かたせ梨乃が演じる『極道の妻たち』の女性も身を売って生きている女性も共通点がある。それは、どちらも男に翻弄され、男のダメな部分を全て知り尽くしている女性である事。それでも時には男を優しく包んであげる―『肉体の門』で娼婦として傷痍軍人の相手をしてあげてる―菩薩のような存在であったり、時には銃を向けたりして逆に男に喰ってかかる―『極道の妻たち 最後の戦い』では一人敵地に乗り込んで銃をぶっ放してしまう―阿修羅のような存在となる。この二面性を持っている女優がかたせ梨乃なのだ。


かたせ 梨乃(かたせ りの)本名:杉田 典子(すぎた のりこ)
1957年5月8日生まれ
 雙葉高校卒業、獨協大学外国語学部英語学科に在学中にCMモデルとしてデビューし、“11PM”のカバーガールからレギュラー司会者として人気を博す。その後は三船プロに入り、NHKの“イキのいい奴”を始め、時代劇“隠密同心 大江戸捜査網”に出演(事務所が分裂した際には少数派になっても残留した)。映画デビューはサスペンス大作『犬笛』。また『極道の妻たち』シリーズでは女優としての地位を確立し、日本アカデミー賞助演女優賞を受賞。同シリーズにおいては、主演の岩下志麻と並ぶ最多出演記録を持っている。近年は中高年女性向けの水着“Pretty pica pica”デザイナーとしても活躍している。また、“ムキムキマン”関連の音楽作品も発表しており、コミックソングとして現在も一部の熟年層にカルト的な支持を誇っている。
(Wikipediaより一部抜粋)

昭和53年(1978)
犬笛

昭和54年(1979)
隠密同心
 大江戸捜査網

昭和57年(1982)
ボーイズ&ガールズ
幻の湖

昭和60年(1985)
愛しき日々よ
二代目はクリスチャン

昭和61年(1986)
極道の妻たち

昭和62年(1987)
吉原炎上
極道の妻たちII

昭和63年(1988)
肉体の門

平成1年(1989)
極道の妻たち
  三代目姐

平成2年(1990)
極道の妻たち
  最後の戦い

流転の海

平成3年(1991)
渋滞
新・極道の妻たち
陽炎

平成4年(1992)
寒椿

平成5年(1993)
新・極道の妻たち
  覚悟しいや

平成6年(1994)
男はつらいよ
 拝啓車寅次郎様
東雲楼・女の乱

平成8年(1996)
シベリア超特急
極道の妻たち
  危険な賭け

平成9年(1997)
身も心も

平成10年(1998)
極道の妻たち 決着

平成11年(1999)
極道の妻たち
 赤い殺意
天使に見捨てられた夜

平成13年(2001)
千年の恋
 ひかる源氏物語



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