病院坂の首縊りの家
法眼家の美しき女たちの怨みと妖気、呪いと嘆きが底知れぬ恐怖を呼ぶ。金田一最後の事件が遂に最大の事件に発展した!

1979年 カラー スタンダード 139min 東宝映画
製作 市川崑、馬場和夫、黒沢英男 監督 市川崑 助監督 橋本幸治 脚本 高真也、九里子亭
原作 横溝正史 撮影 長谷川清 音楽 田辺信一 美術 阿久根厳 録音 矢野口文雄 
照明 佐藤幸次郎 編集 小川信夫、長田千鶴子 衣裳 長島重夫
出演 石坂浩二、佐久間良子、桜田淳子、入江たか子、三条美紀、草刈正雄、萩尾みどり、あおい輝彦
加藤武、大滝秀治、岡本信人、中井貴恵、河原裕昌、久富惟晴、小沢栄太郎、清水紘治、小林昭二
三木のり平、白石加代子、草笛光子、ピーター、林ゆたか、早田文次、山本伸吾、常田富士男、三谷昇


 “病院坂の首縊りの家”と呼ばれる廃屋での連続殺人事件を解決する金田一耕助の最後にして最大の事件を描く。この作品は、昭和51年から約2年間に渡り月刊誌“野生時代”に連載され話題を呼んだ横溝正史の最新作を映画化。東宝の石坂浩二の“金田一”シリーズの五作目にあたるもので、脚本は『女王蜂』の日高真也と同作の久里子亭の共同執筆、監督は『火の鳥』の市川崑、撮影もシリーズ全てを手掛けた長谷川清が担当。出演は、悲劇の犯人役に『天下の暴れん坊』以来、8年ぶりの映画出演となった佐久間良子を迎え、更にヒロインとして桜田純子、また『椿三十郎』以来12年ぶりのスクリーン復帰となり話題を呼んだ入江たか子と新旧女優が初顔合わせとなった。佐久間良子に至っては「自分の納得出来る作品が無かったため映画の仕事を断り続けてきたが、原作を読んで役どころも納得出来たので承諾しました」と語る程。初の汚れ役への意気込みを見せていた。また演技派二枚目俳優として、東宝作品で主役を張っていた草刈正雄が金田一に憧れ、探偵の助手として活躍。他にもシリーズ常連の三木のり平、加藤武、大滝秀治、草笛光子等々最後を飾るに相応しい豪華な面々が顔を揃えた。


 昭和二十六年、渡米を控えた金田一耕肋(石坂浩二)はパスポート用の写真を撮るため本條写真館を訪ねる。そこで、経営者の徳兵衛(小沢栄太郎)から、「誰かに狙らわれているので、調べて欲しい」との調査を依頼される。その夜、写真館に首縊りの家と呼ばれる法眼病院の廃屋で、結婚写真の撮影を依頼される。翌晩、また同じ場所で、風鈴の写真を撮って欲しいと依頼が入り、本條父子と弟子の黙太郎(草刈正雄)そして金田一が撮影現場に行くと、天井から花婿になった男の生首が縊られていた。やがて金田一は、写真を撮られた敏男(あおい輝彦)と小雪(桜田淳子)が、その廃屋で首を吊った女性・冬子(萩尾みどり)の遺児であることをつきとめた。現在、法眼病院を運営しているのは理事である弥生(佐久間良子)であり、彼女には小雪と瓜二つの由香利(桜田淳子・二役)という娘がいた。数日後、金田一に調査を依頼していた徳兵衛が殺され、続いて敏男のバンド仲間・吉沢が殺されてしまう。次々と起こる殺人事件の背景には、弥生の娘・由香利と夫と愛人だった冬子との間に生まれた小雪の忌まわしい血の系譜が存在するのであった。


 昭和の金田一シリーズを締めくくる市川&石坂コンビ最後の作品。以降、『犬神家の一族』リメイク版まで事実上の完結編である。評論家の中には金田一シリーズもマンネリ化して最初の勢いも無くなった…などという声も上がっていた。しかし、仲々どうして…前作『女王蜂』は過去の犯人を演じた女優が勢揃いするといったイベント的な作品に仕上がっていたのに対して、本作は新しい要素を取り入れながら、金田一シリーズの原点に戻ったと言える。草刈正雄の起用もシリーズに新しい世代の血を導入した事によってかなり活性化されたように思える。金田一耕助に憧れて無理矢理探偵の助手になる等、笑いの部分を一手に引き受けた草刈正雄演じる黙太郎は良いアクセントとなっていた。それまで笑いの場面は加藤武演じる「よーし、わかった!」の刑事に集中していたのだが…。原作は金田一シリーズの中でもかなり長い大作で、事件解決まで何十年も費やしてしまう。それを完成度の高い2時間半弱にまとめ上げた脚本は、その労力だけでも賞賛に値する。また、アンダーな画面が全編を覆う…前作『女王蜂』がかなり明るい画面だったのとは対象的な印象を残す本作。カメラマンの長谷川清は、『悪魔の手毬唄』でも見せてくれた、このような硬めの画作りが実に上手い。
 今回の舞台は東京…しかも、金田一がパスポート用の写真を撮りに来るぐらいだからご近所に近い場所らしい。かつて、大きな病院があったから…と、その名がついた“病院坂”。その屋敷で女性が首吊り自殺体で発見され、タイトルの“首縊りの家”となるわけだ。今回のヒロインは、宗教の世界に行ってしまった桜田淳子…やはり、美人の上に演技も上手く、スクリーンで観ることが出来ないのが本当に残念でならない。彼女は、惨劇の舞台となる病院の理事長の娘と瓜二つの顔を持つどさ回りの進駐軍相手の歌手。彼女と兄の母親は、かつてこの病院で首を吊った女である。横溝正史の物語は、何本もの糸が複雑に絡み合いもつれ合っているような人間関係を金田一耕助がひとつひとつほぐして行くところに面白さがある。本作における人間関係は、その最たるものでルービックキューブみたいに遠くにいるような人間が実は身近な関係であったりする。この多面的人間相関図の面白さはシリーズ最高だ。ただし、登場人物の名前くらいは予め頭に入れておく事をオススメする。品の良い熟女を演じたら右に出る者はいない佐久間良子も怪しく艶やかな魅力を振りまき、誰が犯人か?なんて見え見えだとしても、そんな事は全く問題ではない。重要なのは、そこにいるだけで放つ(いや、ここでは湧き立つ…と、表現した方が良いだろうか)彼女が持っている独特のオーラ。新東宝で培った妖しい光こそが、本作のような映画には必要なのだ。
 本作で初めて見る金田一の印象に残るシーンがある。金田一に調査を依頼していた写真館の主人が殺されたという報告に、シリーズで初めて怒りの表情を露わにする。探偵として依頼人をむざむざ殺されたという無念、屈辱を一瞬の間に見事に表現したシーンであると同時に金田一の新たな人間性が垣間見える貴重なシーンだ。本作は、金田一という人間像が丁寧に描かれており、草刈正雄演じる黙太郎に生まれ故郷の話しをするシーンや、男のエゴによって力づくでねじ伏せられ、人生を狂わされた主人公に同情して事件の重要証拠品(この証拠品によって女の生涯は奴隷と化してしまったのだ)を破壊してしまう大胆さを見せる。最終作にして、金田一耕助という人間に最も近づいた本作…犯人が自ら舌を噛み切って絶命している病院坂の上から静かに見下ろしている最後のカットが忘れられない。

金田一耕助を慕う黙太郎の「恐ろしい犯人ですね」という言葉に対し「ええ…可哀想とも言えます」と言う金田一。犯人に同情的だという金田一の一面がうかがえる場面だ。


レーベル: 東宝(株)
販売元: 東宝(株)
メーカー品番: TDV-2750D ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 4,536円 (税込)

昭和22年(1947)
三本指の男

昭和24年(1949)
獄門島

昭和26年(1951)
八つ墓村

昭和27年(1952)
女王蜂

昭和29年(1954)
悪魔が来たりて笛を吹く
犬神家の謎悪魔は踊る
幽霊男

昭和31年(1956)
三っ首塔

昭和36年(1961)
悪魔の手毬唄

昭和50年(1975)
本陣殺人事件

昭和51年(1976)
犬神家の一族

昭和52年(1977)
悪魔の手毬唄
獄門島
八つ墓村

昭和53年(1978)
女王蜂

昭和54年(1979)
悪魔が来たりて笛を吹く
金田一耕助の冒険
病院坂の首縊りの家

昭和56年(1981)
悪霊島

平成8年(1996)
八つ墓村

平成18年(2006)
犬神家の一族



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