悪霊島
鵺の鳴く夜は恐ろしい…。

1981年 カラー ビスタサイズ 131min 角川春樹事務所
製作 角川春樹 監督 篠田正浩 原作 横溝正史 脚色 清水邦夫 撮影 宮川一夫 音楽 湯浅譲二 
美術 朝倉摂 編集 浦岡敬一 照明 佐野武治 録音 西崎英雄 衣裳 新井喜一
出演 鹿賀丈史、室田日出男、岩下志麻、古尾谷雅人、岸本加世子、中島ゆたか、大塚道子、原泉
二宮さよ子、宮下順子、佐分利信、伊丹十三、石橋蓮司、浜村純、根岸季衣、多々良純、中尾彬


 瀬戸内海のある島を舞台に起る、連続殺人事件を追う金田一耕肋の活躍を描く本作は、横溝正史の最新作であり最後の金田一シリーズである。執筆時期は75歳から77歳に亘り、2年間“野性時代”に掲載された、その創作意欲の旺盛さ、年齢をいささかも感じさせない若々しい筆致に、読者は驚き、絶賛を惜しまなかった。監督は『心中天網島』『はなれ瞽女おりん』の名匠・篠田正浩。脚本は『竜馬暗殺』などで大胆なストーリー展開を見せてくれた清水邦夫。撮影は、『羅生門』『雨月物語』等で日本のみならず世界にその名を轟かせた名カメラマン・宮川一夫が担当。更に美術は『桜の森の満開の下』等の映画作品はもとより舞台美術家としても知られる朝倉摂…といった日本映画界が誇る最高のスタッフが結集した。出演は金田一耕助に『野獣死すべし』で注目された鹿賀丈史が扮し、壮絶な美貌を誇る巴御寮人には監督の細君であり『鬼畜』『はなれ瞽女おりん』の評価も高かった岩下志麻が演じている。また、テーマ曲にビートルズの“レット・イット・ビー”と“ゲット・バック”を使用。ビートルズの曲を主題歌にしたのは、もちろん世界初であり、大きな話題となった。


 1967年、日本が高度経済成長期の直中にあった頃、三津木五郎(古尾谷雅人)はヒッピー姿で放浪中、瀬戸内海の刑部島で、金田一耕助(鹿賀丈史)と出会った。金田一はその島出身で、アメリカ帰りの億万長者、越智竜平(伊丹十三)の依頼で人を探しに来ていたのだ。時を同じくして、島とフェリーで結ぶ岡山県下津井港で、海に漂う仮死状態の男が上がり、「あの島には悪霊がとりついている、鵺の鳴く夜は気をつけろ……」と言葉を残して息を引取った。そこで、金田一は浅井はるというもぐりの産婆の殺人事件で来ていた磯川警部(室田日出男)と出会い、死体の男が探している男と同一人物であることを知る。島へ渡った金田一は、島の実力者、刑部大膳(佐分利信)の経営する宿に泊った。数日後の夜、刑部神社の娘・巴(岩下志麻)の婿である守衛(中尾彬)が黄金の矢で胸を刺されて死んでいるのが発見された。さらに、行方不明だった巴の娘で双子のひとり片帆(岸本加世子)も絞殺死体で見つかった。事件の真相は、殺害されたもぐりの産婆にあると広島に渡った金田一は、一連の殺人事件の犯人は巴であるという結論に至る。巴は竜平と別れたショックで、刑部神社を継ぐ女・巴御寮人と、ひたすら男を求める狂った女・ふぶきの二重人格となったのだ。


 角川映画の金田一シリーズは大まかに時代設定が戦後と現代に分けられている。横溝正史が70歳を過ぎて書き下ろした本作を篠田正浩監督はオリジナルの設定から2年ずらした昭和44年という学生運動が巻き起こっていた戦後日本の変革期を選んだ。正に主題歌“レット・イット・ビー”“ゲットバック”を歌うビートルズに国内の若者が熱中していた時代だ。日本の持つ風土…土着的な陰湿な雰囲気を描いていた市川監督に対して篠田監督は時代そのものを切り取り、そこに金田一ごと事件を放り込んだ作りにしている。同じ瀬戸内海の島で起きた島を牛耳る網元の跡継ぎをめぐる殺人事件を扱った『獄門島』とは異なる印象を本作が与えるのは、描かれているのが高度経済成長期、日本が戦後一番の活気をみせていた時代(と同時に公害などの問題が浮き彫りにされた)だからだろうか。それまでの金田一シリーズも時代を物語に巧みに取り入れていたが、本作は昭和40年台という時代背景を色濃く出しており、他に類を見ないほど時代が強く関わっている。当時の佐藤栄作首相は「もう戦後ではない」と日本の繁栄を指して語っていたが、確かに金田一シリーズには珍しく戦後の影は本作では見られない。当てもなく旅をしているような探偵・金田一耕助をさすらいの詩人のように扱っているのも興味深く、演じる加賀丈史も時代の寵児らしい丁度イイ案配だ。事件に巻き込まれるヒッピーの若者役の古尾谷雅人は当時、鬱屈した若者を数多く演じた俳優としてイメージが確立されており、まさに適材のキャスティングだった。冒頭、ジョン・レノンが撃たれたニュースを聞いた彼の回想という形で構成される本作は、ひとつの時代の終焉をジョン・レノンの死と結びついて、第三者的な視点から描かれている。古い風習によって島から終われた伊丹十三演じる男が復讐の心を内に秘めて成功者として戻ってくるのも、土着的な島の文化に対する警鐘ととれる。彼は島の景観を破壊して大規模な開発を行うことで島の因習を打ち砕こうとしているのだから。戦前の日本(特に地方)で彼のような思いで故郷を捨てた人間は多数いたのではないかと思われる。ある意味アメリカ文化や考え方が定着して自己主張できる世の中になったのが本作の時代だ。篠田監督は本作を単なるミステリーの枠に留めず、時代と共に変化する日本人のアイデンティティの崩壊を見事に描いている。
 だからといって難しい社会派ドラマでは勿論ない。本作は、双子の持つ神秘性と多重人格という異常性…美しい島の風景をバックに次々と起こる猟奇殺人は今までの金田一シリーズとは異なるサイコスリラーの怖さがある。岩下志麻演じる双子の姉妹、片や清楚な佇まいの巴御寮人と片や精神を病み色情狂と化してしまった姉・ふぶき…一人二役を熱演していると思ったら実は同一人物の多重人格だったとわかった時の衝撃。巴御寮人が、ふぶきに人格が変わる時が凄い。彼女が鏡を見て真っ赤な紅をさすと体を震わせてゆったりと右手を自分の秘部へ持って行き激しく自慰行為にふける…そこから巴御寮人からふぶきへと人格が変わるのだ。まさに、岩下志麻の渾身の演技だ。その姿を妖しく映し出した宮川一夫のカメラと艶やかな唇の光を再現した佐野武治の照明によって美しくもエロチックな映像美が実現した。また、スクリーンいっぱいに映し出される緑豊かな島の風景の素晴らしさ…宮川一夫による映像には、いつもながら驚かされる。前作『はなれ瞽女おりん』と同様、ロケーション撮影にこだわった篠田監督の要望にしっかりと応えており、惨劇の舞台となる鬱蒼とした森ひとつ取っても群生する木々の奥行きが立体的に浮かび上がってくるのがすごい。金田一耕助という既にイメージが定着したキャラクターに挑んだ篠田監督のチャレンジ精神を見る事が出来る一遍だ。

「現代人の失っているもの…それは静かで激しい拒絶だ」巴御寮人に従順な使用人・吉太郎(石橋連司)の住む納屋に書かれている言葉。奥が深い…哲学的な言葉だ。


ビデオ、DVD共に廃盤後、未発売
昭和22年(1947)
三本指の男

昭和24年(1949)
獄門島

昭和26年(1951)
八つ墓村

昭和27年(1952)
女王蜂

昭和29年(1954)
悪魔が来たりて笛を吹く
犬神家の謎悪魔は踊る
幽霊男

昭和31年(1956)
三っ首塔

昭和36年(1961)
悪魔の手毬唄

昭和50年(1975)
本陣殺人事件

昭和51年(1976)
犬神家の一族

昭和52年(1977)
悪魔の手毬唄
獄門島
八つ墓村

昭和53年(1978)
女王蜂

昭和54年(1979)
悪魔が来たりて笛を吹く
金田一耕助の冒険
病院坂の首縊りの家

昭和56年(1981)
悪霊島

平成8年(1996)
八つ墓村

平成18年(2006)
犬神家の一族



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