夫婦善哉
こ踏まれても、蹴られても、惚れぬいた男の情けに縋りつく女の恋は悲しいもの。

1955年 モノクロ スタンダード 121min 東宝
製作 佐藤一郎 監督 豊田四郎 原作 織田作之助 脚色 八住利雄 撮影 三浦光雄
音楽 団伊玖磨 美術 伊藤熹朔 録音 藤好昌生 照明 石川緑郎 編集 岩下広一 スチール 吉崎松雄
出演 森繁久彌、淡島千景、小堀誠、司葉子、森川佳子、田村楽太、三好栄子、浪花千栄子
万代峰子、山茶花究、志賀廼家弁慶、田中春男、春江ふかみ、二条雅子、梶川武利、丘寵児
大村千吉、三條利喜江、上田吉二郎、吉田新、広瀬正一、谷晃、本間文子、出雲八枝子


 原作は、無頼派の作家として有名な織田作之助の代表作となった短編小説である。『或る女』の豊田四郎がメガホンを取り、『女の四季』で豊田監督とコンビを組み続けている『渡り鳥いつ帰る』の八住利雄が脚色。登場人物の明確な性格付けが施され、豊田監督は本作で「古くさい映画界に新風を巻き起こしてやろうと」決意していたという。全編、大阪弁で構成された本作は、今までの日本映画には無かった新しい人間像が描き出されていた。撮影は『雁』の三浦光雄が手掛け、音楽を『警察日記』の団伊玖磨が担当。美術を担当した伊藤熹朔の手による法善寺横丁のオープンセットは今でも他の追随を許さない程、最高の出来栄えを誇示している。当初、このオープンセットの規模があまりにも大きくなり過ぎたため、撮影が延期になり、その間に主演の森繁久彌が出演したのが『警察日記』である。出演は本作で初めて豊田監督と組む事になった森繁久彌。突然、渋谷の料亭に呼ばれた森繁は先にもらっていた台本を声色で読み上げて役を獲得した。共演には、以降、森繁とは多くの作品で夫婦役を務める事になる『修禅寺物語』の淡島千景、まだ初々しい魅力溢れる『おえんさん』の司葉子が森繁の妹役を演じている。


 曽根崎新地では売れっ妓の芸者蝶子(淡島千景)は、安化粧問屋の息子維康柳吉(森繁久彌)と駈落ちした。柳吉の女房は十三になるみつ子を残したまま病気で二年越しに実家に戻ったままであった。中風で寝ついた柳吉の父親は、蝶子と彼との仲を知って勘当してしまったので、二人は早速生活に困った。蝶子は臨時雇であるヤトナ芸者で苦労する決心をした。そして生活を切り詰め、ヤトナの儲けを半分ぐらい貯金したが、ボンボン気質の抜けない柳吉は蝶子から小遣いをせびっては安カフェで遊び呆けていた。夏になる頃、妹の筆子(司葉子)が婿養子を迎えるという噂を聞いて、柳吉は家を飛び出して幾日も帰って来なかった。地蔵盆の夜、蝶子は柳吉を見つけ身を投げかけてなじった。柳吉は親父の家に入りびたっていたのは、廃嫡になる前に蝶子と別れるという一芝居打って、金だけ貰って後二人末永く暮すためだと云った。それは失敗に終ったが、妹から無心して来た三百円と蝶子の貯金とで飛田遊廓の中に「蝶柳」という関東煮屋を出した。ところが暫くして柳吉は賢臓結核となり、蝶子は病院代の要るままに店を売りに出した。柳吉はやがて退院して有馬温泉へ出養生したが、その費用も蝶子がヤトナで稼いだのであった。柳吉は父からもその養子京一からも相手にされず、再び金を借りて蝶子とカフェを経営することになった。やがて柳吉の父は死んだ。蝶子との仲も遂に許して貰えず、葬儀には参列したが柳吉も位牌も持たせてもらえなかった。二十日余り経って、柳吉と蝶子は法善寺境内の「めおとぜんざい」へ行った。とも角、仲の良い二人なのであった。


 森繁久彌の代表作を挙げろと言われれば、筆者は間違いなく『夫婦善哉』を挙げる。原作者・織田作之助が描く大阪人情悲喜劇を八住利雄の脚色によって文芸映画の名作に仕上がった。豊田四郎監督の作り上げる大阪・難波という独特の雰囲気―当時のスタジオプロによる、撮影、照明、美術など全てが完璧な仕事をしているおかげで、いま観ても色褪せてない。特に法善寺を全てセットで組み、俯瞰から片寄せ合って歩く二人の主人公を捉えたエンディングが実に情緒的で印象に残る名シーンとなった。
 森繁演じる嫁さんをほったらかしてお妾さんの元に入り浸り、仕事もせずにぐうたら三昧の道楽者・柳吉は日本映画史上、最高のキャラクターだ。『夫婦善哉』というタイトルから夫婦の人情ものと思ったら大間違い。家庭をダメにした正にダメ男と、淡路千景演じる何故か甲斐甲斐しく世話をする女・蝶子の物語なのだ。飄々とした森繁の演技もさることながら、淡路の勝ち気でサバサバしつつ男に甘える女っぽさを併せ持った蝶子の演技が実にイイ。ボンボンだった森繁と違い、若い頃から世間の荒波に曝されていたんだろうなぁ…と、想像するに容易い蝶子…。彼女の強さと優しさがあって、森繁のダメっぷりが引き立ち、面白いのだ。柳吉は、ダメ男と言うものの、あまりの生き方下手には、呆れるよりも哀愁を感じさせる。そう…柳吉は、弱者なのだ。自分を引っ張ってくれる女に依存しなくては生きて行けない男なのだ。だから逃げ出すように家庭も財産も放って飛び出したのだろう。貴方と呼ばれお父さんと呼ばれる事が居心地悪かったに違いない。いつか、父親の店を継ぐ事への恐怖から逃げ出したに違いない。
 豊田監督の繊細な職人技が冴えるのは、食道楽の柳吉が美味そうに食す食べ物のシーンだ。庶民が親しんでいる食材を丁寧に捉える事で二人の関係や人間性がよく見える。今も難波にある洋食屋“せんば自由軒”が二人が仲直りするための重要な場所になっている。柳吉と喧嘩した後、一人でやってきた蝶子が柳吉の分までライスカレーを注文して待っているのだが柳吉は現れず、仕方なく二人前のライスカレーを食べる姿が哀愁を誘う。また映画の最初の方で、蝶子の帰りを待つ柳吉が小さな鍋で昆布を煮込んでいるシーンがある。2階の窓辺で蝶子の帰りを待つ柳吉の侘びしさが印象に残る。こうした小物や食べ物を使って、人間の心境を表現できる豊田監督の絶妙なさじ加減が本作を崇高な文芸作品にまで高めている。ラストで二人が食べる法善寺境内にある“夫婦善哉”のぜんざいにしても、食べ物を実に丁寧に描いており、それらがストーリーに自然と融合しているのだ。有名な二人がぜんざいを食べる法善寺のラストシーンは、戦後の日本人の心境を如実に表していたのではなかろうか?法善寺が芝居小屋が軒を連ねる難波の一角にひっそりと佇むお寺だけに、つましく生きる二人と酷似している。実家から勘当され遺産も貰えず、何もかも失った柳吉…柳吉の父親から最後まで本妻になることを認められず自殺未遂騒ぎまで起こしてしまった蝶子…肩を落として店を出た二人が、雪の散つく横丁を明日の希望も見えないまま片寄せ合って歩く姿に観客は自分事のように共感したのだろう。

「おばはん、頼りにしてまっせ」もう説明の必要の無い名台詞。法善寺横丁で、二人でぜんざいを食べるラストシーン…店を出た柳吉が蝶子に言うのだ。


レーベル:東宝(株) 販売元:東宝(株)
メーカー品番:TDV-15060D ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 4,725円 (税込)

昭和22年(1947)
女優

昭和25年(1950)
腰抜け二刀流

昭和26年(1951)
有頂天時代
海賊船

昭和27年(1952)
上海帰りのリル
浮雲日記
チャッカリ夫人と
 ウッカリ夫人
続三等重役

昭和28年(1953)
次郎長三国志 第二部
 次郎長初旅
凸凹太閤記
もぐら横丁
次郎長三国志 第三部
 次郎長と石松
次郎長三国志 第四部
 勢揃い清水港
坊っちゃん
次郎長三国志 第五部
 殴込み甲州路
次郎長三国志 第六部
 旅がらす次郎長一家  

昭和29年(1954)
次郎長三国志 第七部
 初祝い清水港
坊ちゃん社員
次郎長三国志 第八部
 海道一の暴れん坊

魔子恐るべし

昭和30年(1955)
スラバヤ殿下
警察日記
次郎長遊侠伝
 秋葉の火祭り
森繁のやりくり社員
夫婦善哉
人生とんぼ返り

昭和31年(1956)
へそくり社長
森繁の新婚旅行
花嫁会議
神阪四郎の犯罪
森繁よ何処へ行く
はりきり社長
猫と庄造と
 二人のをんな

昭和32年(1957)
雨情
雪国
山鳩
裸の町
気違い部落

昭和33年(1958)
社長三代記
続社長三代記
暖簾
喜劇 駅前旅館
白蛇伝
野良猫
人生劇場 青春篇

昭和34年(1959)
社長太平記
グラマ島の誘惑
花のれん
続・社長太平記
狐と狸
新・三等重役

昭和35年(1960)
珍品堂主人
路傍の石
サラリーマン忠臣蔵
地の涯に生きるもの

昭和36年(1961)
社長道中記
喜劇 駅前団地
小早川家の秋
喜劇 駅前弁当

昭和37年(1962)
サラリーマン清水港
如何なる星の下に
社長洋行記
喜劇 駅前温泉
喜劇 駅前飯店

昭和38年(1963)
社長漫遊記
喜劇 とんかつ一代
社長外遊記
台所太平記
喜劇 駅前茶釜

昭和39年(1964)
新・夫婦善哉
社長紳士録
われ一粒の麦なれど

昭和40年(1965)
社長忍法帖
喜劇 駅前金融
大冒険

昭和41年(1966)
社長行状記
喜劇 駅前漫画

昭和42年(1967)
社長千一夜
喜劇 駅前百年

昭和43年(1968)
社長繁盛記
喜劇 駅前開運

昭和45年(1970)
社長学ABC

昭和46年(1971)
男はつらいよ 純情篇

昭和47年(1972)
座頭市御用旅

昭和48年(1973)
恍惚の人

昭和56年(1981)
連合艦隊

昭和57年(1982)
海峡

昭和58年(1983)
小説吉田学校

平成16年(2004)
死に花



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