神阪四郎の犯罪
むせかえる女の体臭と仮面の情欲!名匠久松静児が比類なき大胆さで描く微妙な人間心理!!

1973年 カラー シネマスコープ 88min 東映京都
製作 岩井金男 監督 久松静児 脚色 高岩肇 原作 石川達三 撮影 姫田真佐久 
音楽 伊福部昭 美術 木村威夫 録音 八木多木之助 照明 岩木保夫
出演 森繁久彌、新珠三千代、左幸子、轟夕起子、高田敏江、滝沢修、広岡三栄子、二木まこと
清水将夫、深見泰三、金子信雄、宮坂将嘉、宍戸錠、杉幸彦、伊達信、下絛正巳、渡規子、藤代鮎子


 石川達三の小説「神坂四郎の犯罪」を『「石狩川」より 大地の侍』の高岩肇が脚色し、『警察日記』の久松静児が監督、同じく姫田真佐久が撮影を担当した。誰しもが心の内で犯している神阪四郎の犯罪を通して、人間のエゴイズムを究極的に描く心理社会劇。主人公・神阪四郎を演じるのは『夫婦善哉』で新境地を見せた森繁久彌。証言の中に出てくる様々な神阪四郎をカメレオンの如く演じ分けている。共演者に『ただひとりの人』の新珠三千代、『人生とんぼ返り』の左幸子、『生きものの記録』の清水将夫、『青銅の基督』の滝沢修、『月夜の傘』の轟夕起子たちが法廷で人間の本質を見せてくれる。クライマックスである神阪四郎と愛人・梅原千代のラブシーンでは大クレーンを用いた大掛かりな撮影を敢行。姫田カメラマンの迫力あるカメラワークのおかげで、誰もが息をのむ壮絶なシーンが仕上がった。映画の撮影中に原作のタイトルである“神坂四郎”と同じ名前の人間が題名を変えて欲しいと名乗り出て、“坂”を急遽“阪”に変更したというエピソードがある。


 三景書房の編集長・神阪四郎(森繁久彌)は、愛人・梅原千代(左幸子)と共に病院へ運ばれる。薬物を飲んで心中を図ったのだが、千代だけが死に神阪は生き残ったのだった。しかし、この心中は勤務先における業務上横領が発覚する前に関係のあった被害者梅原千代のダイヤの指環に眼をつけ、詐取する手段として被害者の厭世感を利用し、偽装心中を図ったという疑いが持たれる。証人として出廷を求められた今村徹雄(滝沢修)、永井さち子(高田敏江)、神阪雅子(新珠三千代)、戸川智子(轟夕起子)の四人は各人各様の証言をするが、果して真実を衝いたものであったろうか。評論家今村徹雄の証言では、神阪の語る言葉は台詞にすぎない。千代との情死も関係者の同情をひく手段であろう…と述べた。編集部員永井さち子は、神阪を利己主義者で嘘つきだ。妻子のあることをかくし、甘言を並べて自分を欺いた。だから千代も巧みに欺かれたのにちがいない…と証言した。妻雅子の証言=自分は誰よりも良人を愛している。深夜、寝床を蹴って仕事に没頭する良人は、いつも家庭の喜びを与え得ないおのれを私に詫びた。これほど仕事を愛する良人が、罪を犯すとは絶対に考えられない。歌手の戸川智子の証言=神阪は駄々ッ子で世間知らずだから、皆から利用されたのだろう。また死んだ千代の日記には、何かと自分の不幸を慰めてくれた神阪に感謝しているが、病気で入院することになったとき、初めて神阪に妻子があると知り、同時に売却方を依頼してあった母の形身の指環を彼から偽物だといわれ、死を決意し、彼に心中を迫ったと記してあった。最後に神阪四郎は次のように叫んだのである。嘘だ。すべての証言は自分に都合のいいことばかりいっている。思いもよらぬ汚名をきせられ、初めて人間社会の醜さを知りました。これ以上、とやかく申し上げますまい。そして、まもなく、護送車に揺られて行く未決囚たちの中に、神阪四郎の顔が見られた。果して彼は犯罪者なのであろうか?


 ネオン瞬く東京の夜景をバックに伊福部昭の重厚な音楽から始まるオープニング。森繁久彌の映画にしては珍しい法廷を舞台にしたサスペンスものだ。しかも、森繁は裁かれる側。タイトルロールが終わるといきなりマンションの一室で左幸子との濃厚なラブシーン…と、思いきや何やら様子が違う。意識がもうろうとした左が森繁の腕の中で息絶える。何度もインサートされるウイスキーのグラスから薬物を飲んだ心中であることが推測できる。わずか、数分のシーンで状況を緊迫感を交えながら説明してしまう久松静児監督の手腕に感服させられる。同じ年に『夫婦善哉』『警察日記』と全く異なる人物を演じた森繁久彌が本作ではタイトルになっている神阪四郎を演じ、5通りの人格を披露する。心中が未遂に終わり独り生き残った神阪が偽装心中を図ったのでは?という疑惑を巡る裁判で証言する4人の女たち(既に死んでいる千代は彼女の日記)が語る回想シーンで構成されている。これは黒澤明の名作『羅生門』を彷彿させるが、本作のテーマは事件の真相よりも神阪という男の真の人格と女たちの証言の食い違いに焦点を当てている。相手によって人格を変える森繁の演技は素晴らしく、変幻自在に役を演じるのに定評のあった森繁の集大成と言っても良いだろう。
 森繁に止まらず、女優たちの演技が素晴らしい。中でも、神阪の妻を演じた新珠三千代は最高の演技を披露する。貧しさの中で奥ゆかしく振る舞う姿と、夫を裏切り遂には居直ってしまう(これは神阪が法廷で主張しているだけで真相は定かではない)したたかさ。女の二面性を見せる彼女に心底、怖い…と思った。そして、もう一人、『人生とんぼ返り』でも素晴らしい演技を見せた左幸子が本作でも、その実力を遺憾なく発揮。森繁との長いラブシーンは当時としては、かなりセンセーショナルなものだったろう。前作では父を想う純朴な娘を演じていたが、本作は180度真逆の役に挑み見事に昇華仕切っている。神阪を死へと誘う彼女の表情も、かなり怖かった。ここまで、女優たちの演技が鬼気迫ると、どちらの証言が正しいのか分からなくなる。勿論、これも久松監督の計算づくなのだろうが、あまりにも完璧過ぎて終映後も混乱状態に陥ってしまう。
 4人の女たち各々が、神阪と何らかの関係を持っており、その証言に出てくる神阪という男は同一人物とは思えない。今の時代ならば、ここまで器用に人格を使い分ける男は、ザラにいるだろうが…。興味深いのは、女たちが証言している間、森繁はずっと無表情で俯いている。まるで、裁判所の中の黒子の様に存在を消しているのだ。しかし、全ての証言が終わり最終弁論を許されてからが凄い!まるで堰を切ったかのように、思いの丈をまくし立てる。簡単に表現すれば「黙って聞いてりゃイイ気になりやがって!」である。自分1人が被害者だったり、自分の地位を守ろうと関係を否定したり、貧しいながら貞淑な妻を演じたり…その全てが神阪の弁論で否定されるのだ。結局、最後まで真相は分からないまま、神阪四郎は刑務所へ送られてしまう。主人公の言葉を借りると、真実なんて、本人にしか分からないのだろう…。

「真相は一体、どこにあるのか?」法廷の最後の自己陳述で投げかける神阪四郎の問題定義に自身でこう締めくくる。「現実の人間社会においては、真相らしきものが真相なのです」第三者の客観性だけが真実とされ、それが時には冤罪を生み出すのだ。


レーベル:東宝(株) 販売元:東宝(株)
メーカー品番:TDV-15060D ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 4,725円 (税込)

昭和22年(1947)
女優

昭和25年(1950)
腰抜け二刀流

昭和26年(1951)
有頂天時代
海賊船

昭和27年(1952)
上海帰りのリル
浮雲日記
チャッカリ夫人と
 ウッカリ夫人
続三等重役

昭和28年(1953)
次郎長三国志 第二部
 次郎長初旅
凸凹太閤記
もぐら横丁
次郎長三国志 第三部
 次郎長と石松
次郎長三国志 第四部
 勢揃い清水港
坊っちゃん
次郎長三国志 第五部
 殴込み甲州路
次郎長三国志 第六部
 旅がらす次郎長一家  

昭和29年(1954)
次郎長三国志 第七部
 初祝い清水港
坊ちゃん社員
次郎長三国志 第八部
 海道一の暴れん坊

魔子恐るべし

昭和30年(1955)
スラバヤ殿下
警察日記
次郎長遊侠伝
 秋葉の火祭り
森繁のやりくり社員
夫婦善哉
人生とんぼ返り

昭和31年(1956)
へそくり社長
森繁の新婚旅行
花嫁会議
神阪四郎の犯罪
森繁よ何処へ行く
はりきり社長
猫と庄造と
 二人のをんな

昭和32年(1957)
雨情
雪国
山鳩
裸の町
気違い部落

昭和33年(1958)
社長三代記
続社長三代記
暖簾
喜劇 駅前旅館
白蛇伝
野良猫
人生劇場 青春篇

昭和34年(1959)
社長太平記
グラマ島の誘惑
花のれん
続・社長太平記
狐と狸
新・三等重役

昭和35年(1960)
珍品堂主人
路傍の石
サラリーマン忠臣蔵
地の涯に生きるもの

昭和36年(1961)
社長道中記
喜劇 駅前団地
小早川家の秋
喜劇 駅前弁当

昭和37年(1962)
サラリーマン清水港
如何なる星の下に
社長洋行記
喜劇 駅前温泉
喜劇 駅前飯店

昭和38年(1963)
社長漫遊記
喜劇 とんかつ一代
社長外遊記
台所太平記
喜劇 駅前茶釜

昭和39年(1964)
新・夫婦善哉
社長紳士録
われ一粒の麦なれど

昭和40年(1965)
社長忍法帖
喜劇 駅前金融
大冒険

昭和41年(1966)
社長行状記
喜劇 駅前漫画

昭和42年(1967)
社長千一夜
喜劇 駅前百年

昭和43年(1968)
社長繁盛記
喜劇 駅前開運

昭和45年(1970)
社長学ABC

昭和46年(1971)
男はつらいよ 純情篇

昭和47年(1972)
座頭市御用旅

昭和48年(1973)
恍惚の人

昭和56年(1981)
連合艦隊

昭和57年(1982)
海峡

昭和58年(1983)
小説吉田学校

平成16年(2004)
死に花



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