台所太平記
豪華十七代スターで描くお手伝いさん行状記

1963年 カラー 東宝スコープ 110min 東京映画
製作 佐藤一郎、金原文雄 監督 豊田四郎 脚本 八住利雄 原作 谷崎潤一郎 撮影 岡崎宏三
助監督 平山晃生 音楽 團伊玖磨 美術 伊藤憙朔 録音 長岡憲治 照明 榊原庸介 企画 宮内義治
出演 森繁久彌、淡島千景、団令子、乙羽信子、淡路恵子、池内淳子、中尾ミエ、大空真弓、水谷良重
京塚昌子、森光子、フランキー堺、三木のり平、山茶花究、西村晃、松村達雄、若宮忠三郎、小沢昭一


 重厚な文芸大作の次は軽い喜劇的な作品を手掛けるというスタンスで年に2〜3本の作品をコンスタントに発表していた豊田四郎監督。本作は、サンデー毎日に連載されていた谷崎潤一郎の随筆的小説を『憂愁平野』の八住利雄脚色によって映画化。豊田監督が谷崎の小説に挑むのは『猫と庄造と二人のをんな』以来。時代の変遷と共に作家の家で働くお手伝いさんの姿をリレー方式で描かれている。こうした大勢の人物が登場して、繰り広げられる様を描く群像喜劇は『駅前旅館』で経験済みだった豊田監督にとって得意とする手法の作品であった。撮影は『喜劇 とんかつ一代』の名カメラマン岡騎宏三によるもの。本作では主人公の森繁久彌とお手伝いさんを演じる女優たちが対峙する場面では、カメラを据えた長廻しで両者のやり取りを充分に見せてくれた。9人のお手伝いさんを演じる豪華女優陣と豊田監督作品常連の淡島千景や『駅前旅館』のフランキー堺、社長シリーズでお馴染みの三木のり平といったオールスターキャストで、この年のお盆映画として公開された。


 京都にある作家の千倉磊吉(森繁久彌)の家では、何人ものお手伝さんが家事手伝いをしていた。初(森光子)は戦前派の典型的な女中だった。初の青春はこの家で過ぎてしまい、結婚の経験もなかったが、磊吉夫婦の世話で薬局の主人花村と見合いをした。しかし初は姉の口ききで別の男性と結婚してしまい、磊吉夫婦を失望させた。梅(乙羽信子)は初と同郷の酒好きで朗らかな性格だった。そして漁師である初の弟安吉と結ばれ千倉家を去って行った。駒(京塚昌子)は京都の出身で大変なグラマー、ゴリラの真似とフラダンスが大の得意、奉公が勤まらなければ家に帰っても入れてもらえないというので、一心に働いている気だての良い女だった。磊吉達は京都から伊豆山へと移るとお手伝いさんも変わり、大津生まれの鈴(池内淳子)は中学を出ているせいか勉強家で、磊吉に字を教えてもらっていた。九州から来た百合(団令子)は、磊吉の口利きで映画スターの付人にしてもらった。入れ代り立ち代り、お手伝さんが千倉家を去来したが、そこにはそれぞれの人生があり、磊吉はその一つ一つの人生に幸あれと祈るのだった。


 森繁久彌演じる著名な作家の家で働く女中さんたちの姿を描いた豊田四郎の傑作。主人公の作家先生は、本作が谷崎潤一郎の随筆を原作としているわけだから…勿論、谷崎潤一郎という事になる(役名は違うが…)。『猫と庄造と二人のをんな』で辛口のコメントを貰った森繁にとって複雑な役だったに違いない。戦後の日本は時代と共に女性の考え方と価値観が大きく変化した。本作では女中さんという職業を介して、「戦後の昭和」をいくつかの時代に区切って描いている。思えば、他人の家で炊事、洗濯を行う女中さんは、雇う側も雇われる側も信頼関係の上に成り立っている。雇い主は十代で奉公にきた若い女中さんを家族の一員として、逆に色々と心配したり面倒をみたりしている。しかし、主人公による「女中さんがお手伝いさんと呼ばれるようになってからイキイキしてきたようです」というモノローグが示す通り、働く女性たちの意識は大きく変わってしまったのだ。
 ひとつの場所にいる複数の人々をコメディタッチで描く手法は、前作『駅前旅館』にて井伏鱒二の風俗小説を映画化して旅館を通して時代の変化を描いた豊田監督のお得意芸。本作では、女中さん個人にフォーカスを当てて時代そのものを切り取っている。『駅前旅館』をオールスター出演によって成功させた東宝。本作ではオールスター女優たちが様々なタイプの女中さんを演じて、彼女たちの演技合戦を観るのも楽しみのひとつだ。お盆・正月映画の醍醐味と言えば、主役級の俳優たちが一堂に介する夢の共演であったのだ。総勢9人にも及ぶ女中さんたちのキャラクターは、豊田監督お得意の漫画的にデフォルメされており、次々と登場する女優陣を観るだけで大いに楽しめる。序盤に登場する乙羽信子と京塚昌子が扮するお手伝いさんは秀逸。乙羽が同僚のお手伝いさんのお見合い中に酒を飲み過ぎてひっくり返るシーンは、最高に笑える。ちなみに、京塚の披露するゴリラの真似は日本映画史に残る爆笑シーンだ。中でも素晴らしいのは、淡路恵子演じる不気味なお手伝いさん。先生のファンでお手伝いに来ているらしいのだが、気配を消していつの間にか背後に忍び寄っていたり、勝手に机の引き出しを開けたり…先生が怒っても抑揚の無い返事ばかり。本作では、いつもの淡路らしい、色気を一切排除して亡霊のような不気味さを全面に押し出して笑いを誘う。
 こうしたお手伝いさんという職業は、召使いとは明らかに違う日本独特の文化だ。彼女たちは、雇い主と雇われている側の違いこそあれ、意識的な差は殆ど無い。前述の通り、見方によっては雇い主の娘や姪っ子のようでもある。だから、主人に甘えたり、拗ねたり、我がままを言ったりするのだ。考えてみると、こうした主従関係が成り立っているのはお手伝いさんの世界くらいかも知れない。本作では、森繁と妻を演じる淡島千景の役回りはある種のストーリーテラー的であり、あくまでも主人公は9人のお手伝いさんたちだ。老け役の森繁は、彼女たちの演技を巧みにサポートしており、時たま見せる好色ぶりが何とも可愛らしく大物の余裕を感じさせる。

「無いとこに無くて、あるところにあるのはお金と女中ね」確かに。財力と家の規模が比例するように、家の規模とお手伝いさんも比例する。


ビデオ、DVD共に廃盤後、未発売
昭和22年(1947)
女優

昭和25年(1950)
腰抜け二刀流

昭和26年(1951)
有頂天時代
海賊船

昭和27年(1952)
上海帰りのリル
浮雲日記
チャッカリ夫人と
 ウッカリ夫人
続三等重役

昭和28年(1953)
次郎長三国志 第二部
 次郎長初旅
凸凹太閤記
もぐら横丁
次郎長三国志 第三部
 次郎長と石松
次郎長三国志 第四部
 勢揃い清水港
坊っちゃん
次郎長三国志 第五部
 殴込み甲州路
次郎長三国志 第六部
 旅がらす次郎長一家  

昭和29年(1954)
次郎長三国志 第七部
 初祝い清水港
坊ちゃん社員
次郎長三国志 第八部
 海道一の暴れん坊

魔子恐るべし

昭和30年(1955)
スラバヤ殿下
警察日記
次郎長遊侠伝
 秋葉の火祭り
森繁のやりくり社員
夫婦善哉
人生とんぼ返り

昭和31年(1956)
へそくり社長
森繁の新婚旅行
花嫁会議
神阪四郎の犯罪
森繁よ何処へ行く
はりきり社長
猫と庄造と
 二人のをんな

昭和32年(1957)
雨情
雪国
山鳩
裸の町
気違い部落

昭和33年(1958)
社長三代記
続社長三代記
暖簾
駅前旅館
白蛇伝
野良猫
人生劇場 青春篇

昭和34年(1959)
社長太平記
グラマ島の誘惑
花のれん
続・社長太平記
狐と狸
新・三等重役

昭和35年(1960)
珍品堂主人
路傍の石
サラリーマン忠臣蔵
地の涯に生きるもの

昭和36年(1961)
社長道中記
喜劇 駅前団地
小早川家の秋
喜劇 駅前弁当

昭和37年(1962)
サラリーマン清水港
如何なる星の下に
社長洋行記
喜劇 駅前温泉
喜劇 駅前飯店

昭和38年(1963)
社長漫遊記
喜劇 とんかつ一代
社長外遊記
台所太平記
喜劇 駅前茶釜

昭和39年(1964)
新・夫婦善哉
社長紳士録
われ一粒の麦なれど

昭和40年(1965)
社長忍法帖
喜劇 駅前金融
大冒険

昭和41年(1966)
社長行状記
喜劇 駅前漫画

昭和42年(1967)
社長千一夜
喜劇 駅前百年

昭和43年(1968)
社長繁盛記
喜劇 駅前開運

昭和45年(1970)
社長学ABC

昭和46年(1971)
男はつらいよ 純情篇

昭和47年(1972)
座頭市御用旅

昭和48年(1973)
恍惚の人

昭和56年(1981)
連合艦隊

昭和57年(1982)
海峡

昭和58年(1983)
小説吉田学校

平成16年(2004)
死に花



日本映画劇場とはサイトマップお近づきに…

Produced by funano mameo , Illusted by yamaguchi ai
copylight:(c)2006nihoneiga-gekijou