男はつらいよ 噂の寅次郎
俺に女難の相だって?言われなくてもわかってらあ。その事で苦労してるんじゃねえか。

1978年 カラー シネマスコープ 104min 松竹(大船撮影所)
製作 島津清 企画 高島幸夫、小林俊一 監督、脚本、原作 山田洋次 脚本 朝間義隆 
撮影 高羽哲夫 音楽 山本直純 美術 出川三男 録音 中村寛 照明 青木好文 編集 石井巌
出演 渥美清、倍賞千恵子、下条正巳、三崎千恵子、前田吟、笠智衆、太宰久雄、佐藤蛾次郎
大原麗子、志村喬、泉ピン子、室田日出男、桜井センリ、吉田義夫、大滝秀治、中村はやと


 マドンナに大原麗子を迎えた第22作。ゲストには兼ねてよりラブコールをしていたという当時テレビワイドショーの毒舌レポーターで人気を博していた泉ピン子を迎え、本作以降、本格的な女優活動を開始している。その他に、東映任侠映画の常連で実力派俳優・室田日出男、そして博の父役として本作が最後の出演となった志村喬が『寅次郎恋歌』以来7年ぶりに登場。今回は旅先で人生の儚さに思い至った寅が柴又に立ち寄り、修行の旅に出ると宣言するも“とらや”のお手伝いに来ていた大原麗子演じる早苗を見た途端に一目惚れしてしまい、夫と離婚するという薄幸なマドンナを勇気づけるため大奮闘を繰り広げる寅が描かれる。ロケ地となった信州・木曽福島と静岡・大井川の美しい風景を高羽哲夫のカメラが情緒豊かに捉えている。


 旅先で偶然、博の父・諏訪(志村喬)と出会った寅(渥美清)は、そこで、諏訪に人生のはかなさについて諭され、「今昔物語」の本を借りて、柴叉に帰った。その頃、“とらや”では、職業安定所の紹介で、荒川早苗(大原麗子)が店を手伝っていた。寅は帰るや否や、家族を集めて、諏訪の受売りを一席ブツのだった。翌朝、修業の旅に出ると家を出ようとするところに、早苗が出勤して来た。彼女の美しさに寅は、またしても一目惚れしてしまう。早苗が現在、夫と別居中であることを聞いて、寅は彼女を励まし力づけると彼女は、涙ぐみながら“寅さん、好きよ”と言ってしまったため“とらや”一家の心配はつのる一方であった。しばらくして、早苗の引っ越しの日、手伝いに出かけた寅は、早苗の従兄弟・添田(室田日出男)を紹介された。ある日、添田は“とらや”に早苗を訪ねてきた。添田は外出している早苗を暫く待っていたが、寅に手紙と預金通帳を早苗に渡すように、託して立ち去るのだった。戻って来た早苗に手紙を渡す寅は添田の気持を悟り「早く後を追え、今ならまだ駅にいる。あんたのこと惚れているんだよ」と躊躇する早苗を説得するのだった。寅の顔を凝視していた早苗は、振り返ると、駅に向かって駈けだした。そして、寅は家族の止める声を背に受けて、旅に出るのだった。


 筆者にとって本作でマドンナを演じている大原麗子は、正に永遠のマドンナである…というひいき目を差し引いても『噂の寅次郎』ほどドキドキさせられた回はなかった。何作も『男はつらいよ』シリーズを観ていると「このマドンナ、マジで寅に惚れてただろう」って思う回があったものの、その大半は口では言わず、素振りで仄かに気持ちを表現するものだった。しかし、大原麗子演じる本作のマドンナ・早苗は寅次郎に向かって「私、寅さんの事…好きよ」とハッキリと言ってしまうのだ。しかも、一度帰りかけていながら、わざわざ戻ってはにかみなが言うのだ。“とらや”の住人たちは、それを告白とはあえて結びつけず「よほど今晩の事が嬉しかったんだろう」と、単なる感謝の意とすり替えてしまう。どこの世界に、意味深な笑顔で「好きよ」と言って、感謝の意を表明する女がいるだろうか?(それだけ、寅次郎に綺麗な女性が告白するはずがないと家族が思っている温度差が面白い)この言葉が単なる謝辞なら大原麗子演じる早苗はとんでもない悪女だ。彼女は、寅次郎に対して本当に恋していた…と筆者は信じる。ただし、こうなると一瞬有頂天になるのだが、自分以上に不器用な男が現れると身を引いてしまうのが寅次郎である。多分、推測なのだが、寅次郎ほど身の程を知っている男はいないのではないだろうか?テキヤ稼業で住まいを持たない自分と、相手の男と比べて、どちらが彼女を幸せに出来るか…を冷静に考えれば自ずと答えは簡単に出てくる。本作でも、二十数年早苗を想い続いてきた室田日出男演じる不器用だが誠実な教師の従兄を見て、敗北宣言をしたのである。早苗が去って行く従兄を寅次郎たちに促され追いかけて行く際に何かを寅次郎に言いかけるのだが「明日、聞くよ」と制され、そのまま寅次郎は旅に出てしまう。彼女は何を言おうとしたのか?もし、寅次郎が旅に出なかったら二人はどうなっていたのか?そんな余韻を残しつつドラマを終わらせる山田洋次の演出は最高である。
 サイドストーリーとなる前半、信州を旅する寅次郎とバッタリ出会った博の父(志村喬3度目の登場!さすが気品と貫禄は、ただバスの席に座っているだけで滲み出ている)と過ごす数日間が丁寧に描かれる。ある夜“今昔物語”(寅次郎は最後までこんにゃく物語と言い続けていたのが可笑しい)の話をされ、人生の儚さを痛切に思い知るシーンが素晴らしい。笑いの中に、私たちにも考えさせる人生哲学が語られており、ここが単なる喜劇と違うところだ。(前回、志村喬が出演した『寅次郎恋歌』で「りんどうの花が咲く家庭の食卓から人間本来の幸せを見た」と切々と語るシーンも素晴らしかった)猛烈に反省した寅次郎が、本とお金を拝借して柴又に戻ると残した書き置きを見て「大人物は反省して帰ったか…」と満足げにつぶやく志村喬の演技はシリーズ屈指の名演である。(本作を最後に亡くなってしまった事が残念でならない)無論、そこで学んだ事はマドンナの登場によってかき消されてしまうのだが、忘れても忘れても日々反省を繰り返すのが寅次郎の良いところなのである。

「俺がこの家にいたんじゃあの人が困るんじゃねえか?それを察してスッといなくなるのが兄ちゃんの心意気よ」このセリフを聞いた瞬間、あぁ…寅さんは全てを分った上で身を引いたのだ…と、理解した。


レーベル: 松竹(株)
販売元: 松竹(株)
メーカー品番: DB-522 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 3,591円 (税込)

昭和44年(1969)
男はつらいよ
続男はつらいよ

昭和45年(1970)
男はつらいよ
 フーテンの寅
新・男はつらいよ
男はつらいよ 望郷篇

昭和46年(1971)
男はつらいよ 純情篇
男はつらいよ 奮闘篇
男はつらいよ
 寅次郎恋歌

昭和47年(1972)
男はつらいよ 柴又慕情
男はつらいよ
 寅次郎夢枕

昭和48年(1973)
男はつらいよ
 寅次郎忘れな草
男はつらいよ
 私の寅さん

昭和49年(1974)
男はつらいよ
 寅次郎恋やつれ
男はつらいよ
 寅次郎子守唄

昭和50年(1975)
男はつらいよ
 寅次郎相合い傘
男はつらいよ
 葛飾立志篇

昭和51年(1976)
男はつらいよ
 寅次郎夕焼け小焼け

男はつらいよ
 寅次郎純情詩集

昭和52年(1977)
男はつらいよ
 寅次郎と殿様
男はつらいよ
 寅次郎頑張れ!

昭和53年(1978)
男はつらいよ
 寅次郎わが道をゆく
男はつらいよ
 噂の寅次郎

昭和54年(1979)
男はつらいよ
 翔んでる寅次郎
男はつらいよ
 寅次郎春の夢

昭和55年(1980)
男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花
男はつらいよ
 寅次郎かもめ歌

昭和56年(1981)
男はつらいよ
 浪花の恋の寅次郎
男はつらいよ
 寅次郎紙風船

昭和57年(1982)
男はつらいよ
 寅次郎あじさいの恋
男はつらいよ
 花も嵐も寅次郎

昭和58年(1983)
男はつらいよ
 旅と女と寅次郎
男はつらいよ
 口笛を吹く寅次郎

昭和59年(1984)
男はつらいよ
 夜霧にむせぶ寅次郎
男はつらいよ
 寅次郎真実一路

昭和60年(1985)
男はつらいよ
 寅次郎恋愛塾
男はつらいよ
 柴又より愛をこめて

昭和61年(1986)
男はつらいよ
 幸福の青い鳥

昭和62年(1987)
男はつらいよ 知床慕情
男はつらいよ
 寅次郎物語

昭和63年(1988)
男はつらいよ
 寅次郎サラダ記念日

平成1年(1989)
男はつらいよ
 寅次郎心の旅路
男はつらいよ
 ぼくの伯父さん

平成2年(1990)
男はつらいよ
 寅次郎の休日

平成3年(1991)
男はつらいよ
 寅次郎の告白

平成4年(1992)
男はつらいよ
 寅次郎の青春

平成5年(1993)
男はつらいよ
 寅次郎の縁談

平成6年(1994)
男はつらいよ
 拝啓 車寅次郎様

平成7年(1995)
男はつらいよ
 寅次郎紅の花

平成9年(1997)
男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇



日本映画劇場とはサイトマップお近づきに…

Produced by funano mameo , Illusted by yamaguchi ai
copylight:(c)2006nihoneiga-gekijou