男はつらいよ 寅次郎相会い傘
漂泊の旅でめぐり逢った懐かしのリリー。北国の夏はうら哀しく心は飛ぶ江戸川の水辺。

1975年 カラー シネマスコープ 90min 松竹(大船撮影所)
製作 島津清 企画 高島幸夫、小林俊一 監督、脚本、原作 山田洋次 脚本 朝間義隆 撮影 高羽哲夫
音楽 山本直純 美術 佐藤公信 録音 中村寛 照明 青木好文 編集 石井巌
出演 渥美清、倍賞千恵子、浅丘ルリ子、船越英二、下條正巳、三崎千恵子、前田吟、太宰久雄、笠智衆
佐藤蛾次郎、中村はやと、吉田義夫、上條恒彦、米倉斉加年、岩崎加根、久里千春、早乙女愛


 “男はつらいよ”シリーズ15作目。『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』に次いでファンの要望に応える形で浅丘ルリ子がシリーズ二度目のマドンナとして出演。浅丘ルリ子は、キネマ旬報主演女優賞を本作で受賞する等、女優として高い評価を得た作品となった。旅先で寅さんが道連れとなる蒸発男に大映から松竹映画初出演となる船越英二が扮して、とぼけた中に味わいのあるバイプレイヤーぶりを見せてくれた。また、本作の目玉となるクライマックスでいよいよ寅さんが結婚か?という緊張感溢れるシーンがあったり、お土産でもらったメロンに対して、人数に入れられなかった寅がすねて文句を言う語り種となる名シーンがあるなど話題には事欠かなかった作品であった。脚本は前作に引き続き『男はつらいよ 寅次郎子守唄』の朝間義隆と監督の山田洋次が共同で執筆している。撮影もシリーズ常連のベテラン高羽哲夫が担当し、夏の北海道の雄大な風景を美しく再現している。


  東北のとある田舎町で出会った兵頭(船越英二)と名乗る男と知り合った寅(渥美清)は一緒に旅をすることになってしまった。そんなある日、函館の屋台のラーメン屋で、寅は二年ぶりにリリー(浅丘ルリ子)と再会した。リリーは鮨屋の亭主と離婚し、もとの歌手に戻って、全国のキャバレーを廻っていたのだ。翌日から三人の、金は無くわびしいながらも楽しい旅が始った。駅のベンチで寝たり、野宿をしたり、兵頭は味わったことのない生活に、徐々に人間らしさを取り戻して来た。三人が小樽に来た時、兵頭がこの町に初恋の人がいることを告白。彼女は、夫に先立たれひっそりと喫茶店を経営していたのだったが、兵頭は彼女に会ったものの、現在の心境を語ることはできなかった。そんな兵頭を寅が、女一人幸せにできないのか、と責めた事から、リリーが怒りだし、三人はバラバラになり、そこで三人の旅は終ってしまった。数日後、柴又に帰って来た寅の元に、リリーが訪ねて二人は再び仲直りするのであった。ある日、さくらたちがリリーに寅との結婚を聞いたところ、リリーは承諾した。思ってもみなかったリリーの答えに喜んださくらは、早速、寅に伝えるのだが、寅は「冗談だろう」と相手にしない。隣りでそれを聞いていたりリーは、「そうよ、冗談よ」と寂しそうにとらやを出て行くのだった。「すぐ追って行きなさい」と言うさくらに、寅は「リリーは賢くて強い女よ、結婚しても俺とじゃうまくいかないさ」と言うだけだった。


 まず、サブタイトルが上手いねぇ〜!『男はつらいよ』シリーズは、作品の内容とサブタイトルが合っていない時があるのだが、“相合い傘”というタイトルに秘められた意味が理解できた時、思わず唸ってしまった。さて、今回も寅さんのマドンナを演じるのは、ドサ回りの歌姫・リリーだ。前作で堅気の寿司屋に嫁いだリリーだったが、冒頭間もなく、“とらや”に現れた彼女の口から、離婚して昔の旅暮らしに戻った事が告げられる。冒頭間もなく本題がスタートするのはシリーズの中でも珍しいのだが…それもそのはず、北海道で寅さんと再会して、喧嘩別れ…その後、二人が柴又で再会し、仲直りしてから大人の恋愛物語が矢継ぎ早に展開されていく…と、盛りだくさんのエピソードなのだ。リズミカルなテンポといい、絶妙なタイミングで起きる事件といい、二人の距離少しずつ近づいていく描写が実に心地良い。前半は、寅さんがひょんな事から道中共にする真面目な蒸発途中のサラリーマン・パパ(船越英治の気の弱いダメダメぶりが最高に笑える)とリリー、三人の姿が旅情豊かに描かれる。当時、高度経済成長期も山場を越えて日本人がひと息ついたところで、自分の将来に不安を感じ、働き盛りのお父さんが蒸発する事件が相次いでおり、山田監督なりのエールだったのかも知れない。
 見所は、リリーが寅さんに対して明確な意思表示(間違いなく愛情を抱いている)をする後半。無邪気に有頂天になっている寅さんと、寅さんに対する気持ちから何かを変えようとするリリー、そんな二人を端から見ているさくら…各々の想いを暖かく切なく、バランスよく描いているのが見事だ。二人が仲良く腕を組んで歩いただけで、柴又中にウワサが広がってしまう事で“寅に彼女が出来た!”と家族が素直に喜べない厳しい現実を観客に突きつけた後、寅さんのリリーに対する純粋な気持ちを表す泣ける名シーンを用意している心憎さ。リリーをキャバレーまで送った寅さんが、あまりにも粗末な舞台で歌うリリーを見て「俺にお金があったら…」とリリーが大劇場で歌う姿を想像して涙する…あのシーンだ。寅さんの純真さに胸が熱くなる。
 続いて、ファンの人気投票トップにランキングされる“メロンのシーン”(これだけで分かってしまうのだから、もはや古典落語の域だ)は何度観ても飽きず常に新鮮であるのがスゴイ。寅さんの分を忘れてメロンを皆で食べていた事から騒ぎ立てる寅さんを「アンタそれは筋違いだろ?」とやりこめてしまうリリーの強さに劇場は大いに湧いた。このシーンの後、寅さんが雨の中、駅まで迎えにきてくれている事に無邪気に喜び甘えてみせるリリー。二人の心がひとつになった相合い傘で帰るこのシーンをタイトルに持ってきた…というわけだ。前作以上に強さと可愛らしさを表したリリーは寅さんだけではなく観客の心を捉えてしまった。寅さんとリリーが結婚してくれたら…と妹ながら夢を描くさくらが、兄の留守中にリリーに自分の夢を語った時に「こんな女で良かったら…イイよ」と言う浅丘ルリ子の表情が素晴らしく、“遂に寅さんも結婚か”と本気で思ったのだが…。明らかに照れ隠しをした寅さんが、肝心なタイミングを逸してしまい、二人の愛が実らなかったという結末は正に大人のラブストーリーと言って良いだろう。

口喧嘩したリリーを雨の中、駅まで迎えに来た寅さんにリリーが風邪引くじゃない…と言うと「風邪引いて悪いかい」という寅さん。そしてリリーが「だって、寅さんが風邪引いて寝込んだら、私つまんないもん」と返す。あぁ、どうして二人は結ばれないのだろうか…。


レーベル: 松竹(株)
販売元: 松竹(株)
メーカー品番: DB-515 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 3,591円 (税込)

昭和44年(1969)
男はつらいよ
続男はつらいよ

昭和45年(1970)
男はつらいよ
 フーテンの寅
新・男はつらいよ
男はつらいよ 望郷篇

昭和46年(1971)
男はつらいよ 純情篇
男はつらいよ 奮闘篇
男はつらいよ
 寅次郎恋歌

昭和47年(1972)
男はつらいよ 柴又慕情
男はつらいよ
 寅次郎夢枕

昭和48年(1973)
男はつらいよ
 寅次郎忘れな草

男はつらいよ
 私の寅さん

昭和49年(1974)
男はつらいよ
 寅次郎恋やつれ
男はつらいよ
 寅次郎子守唄

昭和50年(1975)
男はつらいよ
 寅次郎相合い傘

男はつらいよ
 葛飾立志篇

昭和51年(1976)
男はつらいよ
 寅次郎夕焼け小焼け

男はつらいよ
 寅次郎純情詩集

昭和52年(1977)
男はつらいよ
 寅次郎と殿様
男はつらいよ
 寅次郎頑張れ!

昭和53年(1978)
男はつらいよ
 寅次郎わが道をゆく
男はつらいよ
 噂の寅次郎

昭和54年(1979)
男はつらいよ
 翔んでる寅次郎
男はつらいよ
 寅次郎春の夢

昭和55年(1980)
男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花
男はつらいよ
 寅次郎かもめ歌

昭和56年(1981)
男はつらいよ
 浪花の恋の寅次郎

男はつらいよ
 寅次郎紙風船

昭和57年(1982)
男はつらいよ
 寅次郎あじさいの恋

男はつらいよ
 花も嵐も寅次郎

昭和58年(1983)
男はつらいよ
 旅と女と寅次郎
男はつらいよ
 口笛を吹く寅次郎

昭和59年(1984)
男はつらいよ
 夜霧にむせぶ寅次郎
男はつらいよ
 寅次郎真実一路

昭和60年(1985)
男はつらいよ
 寅次郎恋愛塾
男はつらいよ
 柴又より愛をこめて

昭和61年(1986)
男はつらいよ
 幸福の青い鳥

昭和62年(1987)
男はつらいよ 知床慕情
男はつらいよ
 寅次郎物語

昭和63年(1988)
男はつらいよ
 寅次郎サラダ記念日

平成1年(1989)
男はつらいよ
 寅次郎心の旅路
男はつらいよ
 ぼくの伯父さん

平成2年(1990)
男はつらいよ
 寅次郎の休日

平成3年(1991)
男はつらいよ
 寅次郎の告白

平成4年(1992)
男はつらいよ
 寅次郎の青春

平成5年(1993)
男はつらいよ
 寅次郎の縁談

平成6年(1994)
男はつらいよ
 拝啓 車寅次郎様

平成7年(1995)
男はつらいよ
 寅次郎紅の花

平成9年(1997)
男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇



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