男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花
ほら、あんまり海が青くて、あんまり空が澄んでいたので俺とリリーは、つい夢を見たのよ―。

1980年 カラー シネマスコープ 104min 松竹(大船撮影所)
製作 島津清 企画 高島幸夫、小林俊一 監督、脚本、原作 山田洋次 脚本 朝間義隆 
撮影 高羽哲夫 音楽 山本直純 美術 出川三男 録音 鈴木功 照明 青木好文 編集 石井巌
出演 渥美清、倍賞千恵子、浅丘ルリ子、下條正巳、三崎千恵子、前田吟、笠智衆、太宰久雄、江藤潤
佐藤蛾次郎、光石研、中村はやと、新垣すずこ、比嘉山美也子、金城富美江、間好子、伊舎堂正子


 シリーズ25作目の本作は、『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』でキャバレー歌手リリーに扮して人気を博した浅丘ルリ子がマドンナとして三回目の出演をしている。ハイビスカスの花咲く沖縄を舞台に、寅次郎とリリーを中心に、お馴染“とらや”のレギュラーメンバーが繰り広げる騒動を描く。脚本は『遥かなる山の呼び声』の山田洋次と同作の朝間義隆の共同執筆、監督も同作の山田洋次、撮影も同作の高羽哲夫がそれぞれ担当。本作は“寅さんとリリーが夫婦になったら?”というファンが最も気になっているテーマに真正面から取り組んだ意欲作。山田監督曰く本作のテーマは“ヤキモチを焼かれるうれしさと、焼く側のくやしさを描いた、恋した事のある人ならば誰もが経験した”事があるテーマである。山田監督自身もシリーズの中で一番気に入っている作品と公言している。渥美清の死後、本作は音響をドルビーシステムにリニューアルし、画像もコンピューター処理で補正を施した『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花特別篇』として公開されている。


 故郷の柴又に帰った寅(渥美清)の元に、リリー(浅丘ルリ子)からの手紙が届いた。彼女は沖縄の基地のクラブで唄っていたが、急病で倒れ、入院中だという。そして、手紙には「死ぬ前にひと目寅さんに逢いたい」と書いてあった。とらやの一同は、飛行機嫌いの寅次郎を説得して沖縄へ送り出した。五年振りの再会に、リリーの病状は快方に向かい、二人は療養のために漁師町に部屋を借りた。体を気づかう寅次郎に、リリーは夫婦の感情に似たものを感じる。たが、寅次郎はそんなリリーの気持ちに気づかず、ある日大喧嘩をしてしまう。翌日、リリーは手紙を残して姿を消し、寅次郎もまた柴又に帰ることにした。食うものも食わず、柴又に戻ってきた寅次郎は、沖縄での出来事をさくらたちに語る。それから数日後、リリーがひょっこりとらやにやって来た。置いてけぼりにした寅次郎が心配だったのだ。懐かしく沖縄での生活を語り合う二人だったが、突然、寅次郎は「世帯を持つか」とリリーに言う。しかし、リリーは寅次郎の優しい言葉が素直に受けとれない。二人の関係は、いつでもどちらかが意地を張っている。そして「もし旅先きで病気になったり、つらい目にあったら、寅さんまた来てね」の言葉を残してリリーは旅立った。それから間もなくして、寅次郎も、いつものように、旅の仕度をはじめるのだった。


 リリー篇の第3作、沖縄にいるリリーが倒れた…という知らせを聞いた寅さんが、沖縄に飛び(飛行機に乗るのを嫌がる寅さんを皆で説得するシーンが、相変わらず冴えている)リリーと生活を共にするうちに、二人の心が再び揺れ動き始める。沖縄という南国リゾート地で平和な日々を送る内に、停滞する二人の関係に一石を投じるのは今回も女性のリリー。そうなのだ…寅さんはその時が楽しいと保身に回る傾向にあり、数々の失恋がトラウマとなっているのか、現在の形を壊してしまう事を極端に恐れるのだ。二人は、同じ家に居候させてもらい、最初は夜遅くまで酒を飲み、楽しく世間話や昔話に花を咲かせて過ごしていたのだが、その家の娘が「二人は夫婦なの?」と純粋な疑問を投げかけた瞬間に、幸せの均衡は破られてしまう。そこで、リリーは寅さんに娘と同じ質問を投げかけるのだが、あっさり照れ隠しの冗談でかわされてしまう。多分、寅さんにとっては楽しく笑って酒を飲んでいるのが幸せの絶頂であり、二人は何なのか…そこから先は未知の世界で、本当の意味で分からないのだろう。結局、リリーが煮え切らない寅さんに愛想をつかせて出て行ってしまうところで、沖縄編は終了。
 続いて、柴又に戻った寅さんの元にリリーが訪ねてくるところから、東京編に突入する。まぁ、この構図は前作『寅次郎相合い傘』と同じパターンであるが、決定的に違うのは、二人のお互いに意識している異性としての視点が既に存在しているところだ。前作では、友達から恋愛に移行していく二人の心情を描いていたが、本作では更に踏み込んでいる。沖縄で置いてきぼりにされた寅さんが、電車を乗り継いで(沖縄から船で島を渡り電車で…というのが笑える)やっとの思いで帰り、家族に事の経緯を話すと皆から諭されて、ようやくリリーの真意を理解する。…といった布石があって、寅さんの気持ちが揺らぐ。こうした微妙な大人の恋の行方をひたすら追い続ける山田監督は遂に!クライマックスで、遂に寅さんの口から、あの言葉「リリー、俺と所帯持つか…」を言わせてしまう。わずか、数秒のこのシーンに場内はピーンと張り詰めた空気に覆われた。山田監督がすごいのは、きちんと女性の心理をリリーに投影している事だ。リリーは、ここで前作の寅さん同様に冗談ではぐらかす。リリーにとって沖縄で、寅さんに対する想いを完結させており、ここで首を縦に振る事は出来なかったのだ。勿論、シリーズを続ける上で、リリーが結婚を承諾するわけにはいかないのだが…。リリーが断るシチュエーションを作るために、沖縄の最後の夜が必要不可欠だったのである。見事なまでに自然な男女の心情を繊細な計算の上で作り上げた山田監督は、最後に柴又のホームでさくらと女性同士にしか分かり合えない短い言葉を交わす…という素晴らしいシーンで二人の恋愛物語を締めくくる。このシーンが終わった途端に虚脱感に見舞われたのは筆者だけではないだろう。ラスト…旅先の寅さんとリリーが再会する粋な計らいに、鳥肌が立ち、思わず拍手を送ってしまった。リリー素敵!寅さんカッコいい!

「私、幸せだった…あの時」“とらや”の茶の間で、沖縄での想い出話しに浸るリリーと寅さん。リリーが口にした言葉の後に、寅さんはシリーズ最初で最後の言葉をリリーに言う。「リリー、俺と世帯持つか」―言うまでもなく場内は一瞬、緊張感に包まれた。


レーベル: 松竹(株)
販売元: 松竹(株)
メーカー品番: DB-525 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 3,591円 (税込)

昭和44年(1969)
男はつらいよ
続男はつらいよ

昭和45年(1970)
男はつらいよ
 フーテンの寅
新・男はつらいよ
男はつらいよ 望郷篇

昭和46年(1971)
男はつらいよ 純情篇
男はつらいよ 奮闘篇
男はつらいよ
 寅次郎恋歌

昭和47年(1972)
男はつらいよ 柴又慕情
男はつらいよ
 寅次郎夢枕

昭和48年(1973)
男はつらいよ
 寅次郎忘れな草

男はつらいよ
 私の寅さん

昭和49年(1974)
男はつらいよ
 寅次郎恋やつれ
男はつらいよ
 寅次郎子守唄

昭和50年(1975)
男はつらいよ
 寅次郎相合い傘

男はつらいよ
 葛飾立志篇

昭和51年(1976)
男はつらいよ
 寅次郎夕焼け小焼け

男はつらいよ
 寅次郎純情詩集

昭和52年(1977)
男はつらいよ
 寅次郎と殿様
男はつらいよ
 寅次郎頑張れ!

昭和53年(1978)
男はつらいよ
 寅次郎わが道をゆく
男はつらいよ
 噂の寅次郎

昭和54年(1979)
男はつらいよ
 翔んでる寅次郎
男はつらいよ
 寅次郎春の夢

昭和55年(1980)
男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花
男はつらいよ
 寅次郎かもめ歌

昭和56年(1981)
男はつらいよ
 浪花の恋の寅次郎

男はつらいよ
 寅次郎紙風船

昭和57年(1982)
男はつらいよ
 寅次郎あじさいの恋

男はつらいよ
 花も嵐も寅次郎

昭和58年(1983)
男はつらいよ
 旅と女と寅次郎
男はつらいよ
 口笛を吹く寅次郎

昭和59年(1984)
男はつらいよ
 夜霧にむせぶ寅次郎
男はつらいよ
 寅次郎真実一路

昭和60年(1985)
男はつらいよ
 寅次郎恋愛塾
男はつらいよ
 柴又より愛をこめて

昭和61年(1986)
男はつらいよ
 幸福の青い鳥

昭和62年(1987)
男はつらいよ 知床慕情
男はつらいよ
 寅次郎物語

昭和63年(1988)
男はつらいよ
 寅次郎サラダ記念日

平成1年(1989)
男はつらいよ
 寅次郎心の旅路
男はつらいよ
 ぼくの伯父さん

平成2年(1990)
男はつらいよ
 寅次郎の休日

平成3年(1991)
男はつらいよ
 寅次郎の告白

平成4年(1992)
男はつらいよ
 寅次郎の青春

平成5年(1993)
男はつらいよ
 寅次郎の縁談

平成6年(1994)
男はつらいよ
 拝啓 車寅次郎様

平成7年(1995)
男はつらいよ
 寅次郎紅の花

平成9年(1997)
男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇



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