ふたり
ふたりでひとり、ひとりでふたり

1991年 カラー ビスタサイズ 150min ギャラック、P・S・C、NHKエンタープライズ
製作 川島國良、大林恭子、田沼修二 監督、編集 大林宣彦 脚本 桂千穂 原作 赤川次郎
撮影 長野重一 照明 島田忠昭 美術 薩谷和夫 音楽 久石譲 録音 林昌平、横溝正俊
出演 石田ひかり、中嶋朋子、富司純子、岸部一徳、尾美としのり、増田恵子、柴山智加、中江有里
島崎和歌子、吉行和子、ベンガル、入江若葉、奈美悦子、竹中直人、頭師佳孝、大前均、藤田弓子


 一大観光ブームを巻き起こした“尾道三部作”を手掛けた大林宣彦監督が新たな出発点としてスタートした“新・尾道三部作”の一作目。本来1990年に撮影されるはずだった本作はテレビ版との同時撮影という新しい試みを取り込んだため秋から夏にクランクインを変更して、テレビ版を先行してオンエアを行い、その後に映画版を公開するというメディア・ミックスの先駆けともなった。撮影もハイビジョンとフィルムのSFXを掛け合わせ、ここでも時代の先駆者として次世代の撮影技法にチャレンジしている。人気作家・赤川次郎の原作を日活ロマンポルノで数多くの名作を送り続け、『HOUSE ハウス』以来、大林監督と度々名コンビを組んでいる桂千穂が脚本を手掛けている。音楽を『となりのトトロ』の久石譲が大林監督の映画作りに共感して「手弁当で良いから参加させてほしい」とラブコールを送り続け遂に実現したという。主演の実加に映画初主演となった石田ひかりが扮し姉の千津子のは“北の国から”の名子役として知られている中嶋朋子が扮し、切なく儚げな姉妹の心境を見事に体現されていた。


 ドジでのろまな夢見る14歳の実加(石田ひかり)は、優しい両親と自分とは正反対のしっかり者の姉・千津子(中嶋朋子)に囲まれて幸せな日々を送っていた。ところがある朝、学校へ行く途中、忘れ物を取りに戻ろうとした千津子は、突然動き出したトラックの下敷きになって死んでしまい、その事故のショックで母・治子(富司純子)はノイローゼ気味になってしまう。実加はけなげにも姉の代わりを演じようと、ひとり明るく振る舞うが、ある日、変質者に襲われかけた実加は、死んだ千津子の幽霊に助けられる。その日以来、実加が難関にぶつかると千津子が現れ、“ふたり”で次々と難関を突破してゆく。そして千津子に見守られながら、日に日に美しく素敵な少女に成長していく実加は、第九のコンサート会場で、姉の知り合いだったという青年・智也(尾美としのり)に出会い、ほのかな想いを抱くようになる。やがて16歳になった実加は、千津子と同じ高校へ進学。演劇部へ入部し、千津子が生前演じたミュージカルの主役に抜てきされるが、そんな実加をやっかむいたずら電話により、治子は倒れて再び入院する。それと同時に北海道へ単身赴任していた父・雄一(岸部一徳)の浮気が発覚する。崩れかける家族の絆を必死に守ろうとする実加と、それを見守る千津子。そして、実加がそんな事態を乗り越えた時、それは千津子との別れの時でもあった。こうして自立していく実加は、この出来事を本に書き残そうと心に決めるのだった。


 大林宣彦監督は、どうして少女の気持ちを上手く描けるのだろう。思い返せば長編デビュー作の『HOUSE/ハウス』からしてホラーであるにも関わらず、女子高生たちのガールズトーク(勿論、その当時はそんな言葉は無かったが…)を細かなカット割でハツラツとした躍動感を持って表現していたし、尾道三部作の『時をかける少女』でも、仄かな恋に揺れ動く微妙な女の子の感情を原田知世の表情の中から切り抜く事に成功していた。本作『ふたり』では最愛の姉を事故で亡くしてしまった石田ひかり演じる少女が、大人へと変わり行く過程をまるで本のページをめくるように描いている。彼女が亡き姉への想いを書こうと、原稿用紙を広げる冒頭(ジェーン・アリスン主演の名作“若草物語”を思い出してしまった)から推察するに、大林監督は本作を主人公の書き綴るエッセイを読み進めるイメージで構成していたのではなかろうか。姉が死ぬ最後の瞬間に居合わせた妹が、ようやく姉の死を受け入れ自分の人生に対等に向き合う瞬間から始まり、彼女のモノローグ的に物語は進んでいく。ある日を境に、美加の前に幽霊となった中嶋朋子演じる姉・千津子が、時折現れては妹を励ましたりする。いつも優等生の姉の影に隠れてしまい内心やっかんでいた妹はどこかで、“姉の死は自分のせい”と自分を責めているのが何となく美加の行動から伺い知る事ができる。主人公の姉妹に石田と中嶋を配役した事が、まず大正解。それ以前に、本来、赤川次郎の原作には姉の幽霊は声しか登場しないのを具象化させた大林監督の脚色によって姉と妹の関係がより明確になり、出来の良すぎる姉に対するコンプレックスを持つ妹の焦燥感が、よく伝わっていた。幼さが残るホンワカした顔立ちの石田と、清楚でシッカリした顔立ちの中嶋の対比がビジュアル的にも分かり易い構図となっている。大林監督は姉・千津子の映画と妹・美加の映画を一本に合体させる…という発想で素晴らしい映画を作り上げてしまった。
 “あれっ?お姉さんの幽霊って本当は妹自身なんじゃないの?”と気付き始める(実際、原作では姉の声は妹自身のものとされている)中盤あたりから明らかに美加の顔立ちが変わってくるあたりも演出が上手い。そんな彼女の表情にドキッとさせられた印象に残るシーンがある。ピアノの発表会当日、緊張して鍵盤を前に茫然としている美加に、姉が「力強く!」と後押しするところだ。美加は、今まで見せた事がない堂々とした演奏を披露する感動的なシーンであり、最大の見せ場と言って良いだろう。こうした変化を適所に散りばめて少女の成長の過程を見せる大林監督のさじ加減は天才的だ。結果的に大林監督は、姉の正体を明かす事なくエンディングまで持っていくのだが、これもまた作品に女の子特有の神秘性を漂わせる効果をもたらした。姉を亡くした女の子の成長記として観るのも良し…ファンタジーの世界として、“あのお姉さんは本当に幽霊として存在したんだ”と観ても何ら問題はない。
 ラストで、美加は自立する事と引き換えに姉の幽霊と決別するのだが、素晴らしいのはエンドロールが流れる直前のカット。映画は、今まで避けていた事故現場の道を数年ぶりに美加が歩くところで終わるのだが、そこに事故を起こしたトラックの運転手が花を手向ける姿が映し出される。多分、彼は毎日この場所を訪れていて、きっと彼の時間は事故の時からストップしているのだろう。ようやく前を向いて歩き始めた美加が運転手に今後、救いの手を差し伸べるのでは?…と予感したのは私だけだろうか。様々な人間の人生が時空を越えて交差する素晴らしいエンディングだった。

「あたしはみんな終わった事ばかり…だからあんたは、これから始まる事を大切にしてね」既にこの世にはいない姉の霊が言うセリフ。そう…生きているから未来に起こる出来事を体験出来るのだ。


レーベル: ジェネオンエンタテインメント(株)
販売元: ジェネオンエンタテインメント(株)
メーカー品番:PIBD-1131 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 4,935円 (税込)

昭和43年(1968)
CONFESSION
 遙かなる憧れギロチン恋の旅

昭和52年(1977)
HOUSE ハウス
瞳の中の訪問

昭和53年(1978)
ふりむけば愛

昭和54年(1979)
金田一耕助の冒険

昭和56年(1981)
ねらわれた学園

昭和57年(1982)
転校生

昭和58年(1983)
時をかける少女

昭和59年(1984)
廃市
少年ケニヤ
天国にいちばん近い島  

昭和60年(1985)
さびしんぼう
姉妹坂

昭和61年(1986)
彼のオートバイ、彼女の島
四月の魚
野ゆき山ゆき海べゆき

昭和62年(1987)
漂流教室

昭和63年(1988)
日本殉情伝
異人たちとの夏

平成1年(1989)
北京的西瓜

平成3年(1991)
ふたり

平成4年(1992)
私の心はパパのもの
彼女が結婚しない理由  
青春デンデケデケデケ

平成5年(1993)
はるか、ノスタルジィ
水の旅人 侍KIDS

平成6年(1994)
女ざかり

平成7年(1995)
あした

平成9年(1997)
TIME LEAP
 タイム・リープ

平成10年(1998)
三毛猫ホームズの推理
SADA
風の歌が聴きたい
麗猫伝説 劇場版

平成11年(1999)
あの、夏の日
〜とんでろ じいちゃん

平成12年(2000)
マヌケ先生
淀川長治物語
 神戸篇 サイナラ

平成13年(2001)
告別

平成14年(2002)
なごり雪

平成16年(2004)
理由

平成18年(2006)
22才の別れLycoris
 葉見ず花見ず物語

平成19年(2007)
転校生
 さよならあなた

平成20年(2008)
その日のまえに



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