おろしや国酔夢譚
壮大な時空の中で、男たちは何を見たのか。

1992年 カラー ビスタサイズ 125min 東宝
製作総指揮 徳間康快 監督、脚本 佐藤純彌 脚本 野上龍雄、神波史男 原作 井上靖
撮影 長沼六男 照明 熊谷秀夫 美術 徳田博、ワレーリー・ユルケーヴィチ 音楽 星勝
録音 橋本泰夫 編集 鈴木晄 プロデューサー 土川勉、桜井勉、アンドレイ・ゼルツァーロフ
出演 緒形拳、西田敏行、マリナ・グラディ、オレグ・ヤンコフスキー、沖田浩之
ユーリー・ソローミン、エヴゲニー・エフスチグネーエフ、江守徹、川谷拓三、三谷昇


 鎖国日本にあって、広大なシベリア大陸を走り抜けた日本人の冒険記を描いた井上靖原作の映画化。本作の映画化には『敦煌』で一大旋風を巻き起こした製作グループによって、構想10年、準備期間3年の歳月を費やしている。脚本・監督は『敦煌』の佐藤純彌。共同脚本は『必殺4 恨みはらします』の野上龍雄と『火宅の人』の神波史男。撮影は『魚影の群れ』『マリアの胃袋』の長沼六男がそれぞれ担当。映画化に当たってロシア最大の映画会社レンフィルムが全面的に協力をしてくれて、イルクーツクに33万平方メートルのオープンセットを作り200年前の市街地を再現。更には極寒のシベリア大陸横断ロケ等、総製作費45億円を掛けた超大作となった。また、ソ連側の協力によって史上初のエカテリーナ宮殿でロケが敢行、厳密な時代考証によって美術、装飾品が再現された。主演に『大誘拐』の緒形拳、『敦煌』の西田敏行、そしてエカテリーナ2世にロシアの名女優マリナ・グラディを迎え堂々たる演技を披露している。


 1782年、伊勢出帆後に難破した光太夫(緒形拳)らは、9カ月後に北の果てカムチャッカに漂着する。生き残ったわずか6名の日本人は、帰郷への手立てを探るためにオホーツク、ヤクーツク、イルクーツクと世界で最も厳しい寒さと戦いながらシベリアを転々とするが、土地土地で数奇な運命に翻弄される。そして、凍傷で片足切断した庄蔵(西田敏行)は日系ロシア人のタチアナに手を引かれるようにキリシタンとなり帰化、若い新蔵(沖田浩之)はロシア女ニーナと恋におち姿を消した。一方、光太夫は学者ラックスマン(オレグ・ヤンコフスキー)を通じ、初めて見る文化に強い衝撃を覚え、この感動を故国へ伝えたいと帰国への執念をなお燃やすのだった。そして、最後の望みを賭け、エカテリーナ二世(アナスタシヤ・ニェモリャーエワ)への直訴を決意、首都ペテルブルグに向かった。ラックスマン、ベズボロドコ伯爵、女王側近ソフィアの協力を得て、ついに光太夫の熱い想いは女帝の心に通じ、光太夫、小市、磯吉わずか3人だが、1792年、実に9年9カ月ぶりに帰国を果たし根室へ着く。だが、鎖国中の幕府は彼らを迎え入れようとはせず、小市は病死、光太夫、磯吉も上府、雉子橋外の厩舎に留置されるが、やがて松平定信のはからいで光太夫は幽閉という扱いで、迎え入れられることになるのだった。


 日本がまだ鎖国を続けていた江戸時代、嵐に遭遇し難破した神昌丸の乗組員11名は9ヵ月間も漂流した後にカムチャツカへ辿り着く。まず長沼六男のカメラによる水平線の彼方に見えるカムチャツカの映像に酔いしれる。これぞ男のロマン…見える山々は小さな半島かも知れないが、その向こうに広大なロシアが続いている事を我々は知っているから今後起こるであろう逆境を想像してしまうのだ。大陸を海から臨む静かなオープニングに佐藤純彌監督の確信犯的な演出が冴え、少なくとも私の心を鷲掴みにした。かつて二本立てが当たり前だったプログラムピクチャーの中で一本立て興行を成立させた『未完の対局』『敦煌』『植村直巳物語』等の大作を送り続けた佐藤監督にとって、厳しい自然環境のロシアは正に相応しいスケールを持つ題材だ。数万キロに及ぶ大ロケーション撮影をペレストロイカ真っ只中に敢行できたのは多分、佐藤監督じゃなければ完成出来なかったであろう。大画面いっぱいに広がる大雪原とその彼方に連なるウラルの迫力。かと思えばバロック建築物が建ち並ぶ美しき芸術の都ペテルブルグの優雅な佇まい…これこそ本物が持つ迫力だ。
 ここで大切なのは、こうしたスケールの中で埋もれない(自然と対等に渡り合える)主役の存在感である。その点、緒形拳は感情をあまり表に出さず、むしろ無言で荒れ狂う吹雪に仁王立ちで挑む光太夫という人間の大きさを見事に表現している。緒形演じる大黒屋光太夫が漂流の果てに辿り着いた地で初めて出会う異国の人間に戸惑い、握手の意味が分からず差し出された手を恐れて引っ込めてしまう。このシーンにおける緒形が実に良いのだ。真っ直ぐ正面を見据えていながらふとした仕草から弱さが垣間見える…こういう演技は彼の真骨頂だと思う。まず「これは何?」という一言のロシア語からスタートして続々と単語と言葉を覚えていく下りは感動する。それから2年後、仲間と共に船を組み立てて完成目前に自ら手を差し出しロシア人に握手を求めるシーンの布石となっているのが心憎いではないか。控えめなのか?大胆なのか?…犬ゾリで真冬のシベリアをオホーツクからイルクーツクまでの5000キロを横断する際、「落伍者は見捨てる」と言い放つ力強さは鳥肌ものだった。実際はソリが横転して落伍しかけた西田敏行演じる庄蔵を助けに戻ってくるのだが…。このシーンにおける長沼カメラマンの映像が素晴らしく地平線まで何もない真っ白な雪原に倒れ込む庄蔵が顔を上げると吹雪の向こうから光太夫が現れる。まるでアカバ攻略で砂漠で置いてきぼりにされた男を救いに戻るロレンスのようだった。その反面、日本に帰りたいと声高に訴える仲間たちと違いロシア語を早々に覚えロシアの文化にいち早く溶け込む事が帰国への近道だと考えるインテリジェンスな一面を持ち合わせていた光太夫は緒形らしいキャラクターだと思う。佐藤監督が脚本の段階から主役は緒形拳と決めていたのは光太夫という人物がカリスマ性のあるリーダーではなく自分の信念を仲間のために結局は曲げてしまう非情になり切れない優しさを持った人物だからだろう。(仲間に押し切られ厳冬のシベリアを横断するエピソードからも明らか)そんな抑えた芝居を続けたからこそ後半のクライマックス―帰国の許可を求めるために女帝エカテリーナ二世にすがりつき懇願する緒形は凄まじい迫力をもって最高の演技を見せてくれる。

「初めて日本人である事に気付きました」女帝に謁見が許された光太夫がロシアの感想を尋ねられた時の言葉。異国に来て初めて分かる事というのはたくさんある。


レーベル:角川書店
販売元:角川書店
メーカー品番: DABA-98 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 3,701円 (税込)

昭和43年(1968)
セックス・チェック
 第二の性

昭和44年(1969)
永訣 わかれ
風林火山
わが恋わが歌
七つの顔の女

昭和46年(1971)
婉という女

昭和48年(1973)
必殺仕掛人
 梅安蟻地獄

昭和49年(1974)
必殺仕掛人
 春雪仕掛針
砂の器
狼よ落日を斬れ
 風雲篇・激情篇・怒濤篇

昭和52年(1976)
太陽は泣かない

昭和52年(1977)
八甲田山

昭和53年(1978)
鬼畜

昭和54年(1979)
復讐するは我にあり

昭和55年(1980)
復活の日
わるいやつら
影の軍団 服部半蔵

昭和56年(1981)
北斎漫画
魔界転生
ええじゃないか
太陽のきずあと

昭和57年(1982)
野獣刑事

昭和58年(1983)
楢山節考
魚影の群れ
オキナワの少年
陽暉楼
 

昭和60年(1985)
薄化粧

MISHIMA:A Life In Four Chapters

昭和61年(1986)
火宅の人

昭和62年(1987)
女衒
吉原炎上

昭和63年(1988)
優駿 ORACION
ラブ・ストーリーを君に
孔雀王
華の乱

平成1年(1989)
将軍家光の乱心 激突
社葬
座頭市

平成3年(1991)
咬みつきたい
グッバイ・ママ
陽炎
大誘拐 RAINBOW KIDS 

平成4年(1992)
おろしや国酔夢譚
継承盃

平成5年(1993)
国会へ行こう!

平成8年(1996)
ピーター・グリーナウェイの枕草子
GONIN 2

平成11年(1999)
あつもの 杢平の秋
流星

平成12年(2000)
殺し

平成13年(2001)
歩く、人

平成15年(2003)
ミラーを拭く男

平成16年(2004)
隠し剣 鬼の爪
Last Quarter下弦の月

平成17年(2005)
ミラクルバナナ

平成18年(2006)
長い散歩
武士の一分
佐賀のがばいばあちゃん
寝ずの番

平成20年(2008)
ゲゲゲの鬼太郎
 千年呪い歌



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