復讐するは我にあり
惜しくない 俺の一生こんなもん…

1979年 カラー ビスタサイズ 140min 松竹
製作 井上和男 監督 今村昌平 脚本 馬場当 撮影 姫田真佐久 原作 佐木隆三
美術 佐谷晃能 音楽 池辺晋一郎 照明 岩木保夫 録音 吉田庄太郎 編集 浦岡敬一
出演 緒形拳、三國連太郎、ミヤコ蝶々、倍賞美津子、小川真由美、清川虹子、殿山泰司、垂水悟郎
絵沢萠子、白川和子、浜田寅彦、フランキー堺、北村和夫、火野正平、根岸とし江、梅津栄
河原崎長一郎、金内喜久夫、加藤嘉、小野進也、石堂淑朗


 昭和38年、日本中を震撼させていた実在した連続殺人鬼・榎津巌の78日間もの逃亡生活と人間像を『にっぽん昆虫記』『楢山節考』の今村昌平が映画化。原作は昭和50年下半期直木賞受賞作となった佐木隆三の同名小説。原作の発表後、その内容に惚れ込んだ黒木和雄、深作欣二、藤田敏八らも映画化を熱望した。今村監督は「犯罪の全てを描く事で、現代および現代人を捉える」と意欲的に取り組んでおり、本作は10年ぶりの劇映画となった。脚本は、『エデンの海』『泥だらけの純情』などの馬場当が担当。撮影は『人間の証明』や『野性の証明』などのベテラン姫田真佐久が手掛ける。大半のロケ撮影を実際の現場で行うという今村監督が徹底したこだわりを見せ、特に弁護士殺害シーンは実際の殺害事件の現場であるアパートで撮影された。主演は本作以降、今村監督作品の常連となる緒形拳。主人公が殺人犯と知りながら恋に落ちる女性に『八つ墓村』『鬼畜』の小川真由美。主人公の父親に『八甲田山』などの名優・三國連太郎、主人公の妻を『喜劇 女は度胸』の倍賞美津子が演じている。第22回ブルーリボン賞ならびに第3回日本アカデミー賞作品賞を受賞した。


 日豊本線築橋駅近くで専売公社のタバコ集金に回っていた社員の惨殺死体が発見され、現金四十一万円余が奪われていた。かつてタバコ配給に従事した運転手榎津厳(緒形拳)が容疑者として浮かんだ。榎津は駅裏のバーのママを強姦するなど、捜査員の聞き込んだ評判も悪い男だ。数日後、宇高連絡船甲板に幸子と両親宛ての榎津の遺書と、一足のクツが見つかり、投身自殺の形跡があった。偽装と疑った警官が別府市・鉄論で旅館を営む榎津の実家を訪れると、老父鎮雄(三國連太郎)、病身の母かよ(ミヤコ蝶々)、妻加津子(倍賞美津子)は泣きながら捜査の協力を誓う。一家は熱心なカトリック信者だが戦争中、厳は網元をしていた父が軍人に殴られる屈辱の現場を目撃して、神と父への信仰を失い、預けられた神学校で盗みを働いて少年刑務所へ送られた過去を持っていた。結婚後、榎津は何度も犯罪を繰り返しては出所する度に父と加津子との仲を疑っていた。逃亡する榎津は浜松の旅館「あさの」に腰をすえ、大学教授と称して警察をあざ笑うような行為を重ねる。榎津はそこの女あるじハル(小川真由美)と関係を持つも、やがてはハルや母のひさ乃(清川虹子)にも正体がばれてしまう。しかし、榎津に抱かれるハルは関係に溺れる。だが、そんな母娘を榎津は絞め殺して家財を売り飛ばし逃亡資金を貯えて、七十八日後、九州で捕まるまで詐欺と女関係を繰り返した。絞首台に上がる直前、最後の面会に来た父に榎津は「人殺しをするならあんたを殺すべきだった」と毒づく。榎津の処刑後、別府湾を望む丘に骨壷から榎津の骨片を空に向って投げる鎮雄と加津子の姿があった。


 両手を唐辛子で真っ赤に染めて瓶いっぱいの朝鮮漬けを作る小川真由美演じるハル。そこへ浴衣姿の緒形拳演じる榎津厳が入ってきて冷蔵庫から瓶ビールを取り出しコップに注ぐ。「私にも一口くれる?」両手が汚れているハルにビールを飲ませる…と、画面は切り替わりビールを飲むハルの喉元がアップになる。虚ろな緒形の目が一瞬ギラリと光った次の瞬間、その手はビールを飲むハルの首に延びて絞め殺してしまうのだ。何でもない日常の朝、取りとめない言葉を二〜三交わした後に、殺しを行う。不思議なのは抗うどころか死を受け入れる…榎津に殺されるのを予感していたかのようなハルの行動だ。一瞬首を絞めていた手を緩めた榎津に「遠くへ…」と言う小川の演技に戦慄を覚える。凄い!今村昌平監督のカット割り…ハルが死ぬ瞬間を天井に据えられたカメラに切り替わり俯瞰から二人の様子を捉える。まるで息を潜めてこの惨劇を覗き見しているようだ。古びた連れ込み宿のような旅館の台所で人間の業を見せつけた緒形と小川の壮絶な演技に全ての精気を持って行かれた気がした。
 榎津が最初の殺人を行った直後、返り血を浴びて血に染まった手を小便で洗い流す下りがある。それをタオルで拭いた後、木に成った柿をもいで食べるが渋味にすぐ吐き出す。榎津の狂気を最もよく表していたこの緒形の一連の演技が素晴らしい。続いて第二の殺人(最初の犯行直後だ)を行う時に一度、車のフェンダーで自分の顔を見る。まだ目の奥にギラついた殺人を犯したばかりの光が残っている…これは演技なのか?今村監督をして「五でいいのに十もやる役者。」と緒形拳について言わしめたがこの場面の緒形は正にそんな感じ。ちなみに、二番目の犠牲者・馬場大八を演じた垂水悟郎がイイ。包丁で切りつけられ命乞いをする馬場に「病院に連れてっちゃる」と言われ安心するのだが、結局は山奥に連れて行かれて殺されてしまう。トラックから引きずり出される時に「うわぁ…病院じゃなか」というセリフがこの犯行の猟奇性を際立たせる。そして、この映画にはもう一人過去に殺人を犯した人間が出ている。前述したハルの母親ひさ乃だ。演じる清川虹子が凄まじい気迫を全ての登場場面で放っている強烈な存在感。本作で緒形と五分で渡り合っている前科者の老女役は清川以外には考えられなかったであろう。彼女について印象に残る場面がある。競艇の帰り道、榎津の殺気を感じたひさ乃が振り向きもせず「殺すなよ…榎津」と言う場面だ。
 そんなひさ乃も榎津の手に掛かるのだが、この場面でゾクッとするほど今村監督の類い希なる作家性を感じてしまった。既に娘が殺されているとも知らずに階段を二階へ上がるひさ乃。紐を持って(勿論、絞殺するための)ひさ乃を追う榎津。榎津と入れ替わるように階段横の廊下の奥からゆったりと榎津の母親が歩いてくる。場面は浜松の旅館から大分の実家に切り替わる…あぁ、何という見事なつなぎなのだろう。この場面についてはモロに全てがありのままに映ってしまう映画の特性を逆手に取った細工だという。ここで観客にドキッとさせておいて、いきなりひさ乃の死体を見せて現実に引き戻す…この絶妙な演出に唸ってしまうのだ。

「ワシはあの婆を本当に殺したかったで殺しただ。だもんでヤった時は胸がすーっとしただ。アンタすーっとしてるかね?」清川虹子演じる刑務所に殺人罪で服役していた老女が緒形拳に尋ねる。「本当に殺したいやつ殺してねぇんかね?いくじなしだねアンタ…そんじゃ死刑ずら」


レーベル:松竹
販売元: 松竹(株)
メーカー品番: DA-5284 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 2,940円 (税込)

昭和43年(1968)
セックス・チェック
 第二の性

昭和44年(1969)
永訣 わかれ
風林火山
わが恋わが歌
七つの顔の女

昭和46年(1971)
婉という女

昭和48年(1973)
必殺仕掛人
 梅安蟻地獄

昭和49年(1974)
必殺仕掛人
 春雪仕掛針
砂の器
狼よ落日を斬れ
 風雲篇・激情篇・怒濤篇

昭和52年(1976)
太陽は泣かない

昭和52年(1977)
八甲田山

昭和53年(1978)
鬼畜

昭和54年(1979)
復讐するは我にあり

昭和55年(1980)
復活の日
わるいやつら
影の軍団 服部半蔵

昭和56年(1981)
北斎漫画
魔界転生
ええじゃないか
太陽のきずあと

昭和57年(1982)
野獣刑事

昭和58年(1983)
楢山節考
魚影の群れ
オキナワの少年
陽暉楼
 

昭和60年(1985)
薄化粧

MISHIMA:A Life In Four Chapters

昭和61年(1986)
火宅の人

昭和62年(1987)
女衒
吉原炎上

昭和63年(1988)
優駿 ORACION
ラブ・ストーリーを君に
孔雀王
華の乱

平成1年(1989)
将軍家光の乱心 激突
社葬
座頭市

平成3年(1991)
咬みつきたい
グッバイ・ママ
陽炎
大誘拐 RAINBOW KIDS 

平成4年(1992)
おろしや国酔夢譚
継承盃

平成5年(1993)
国会へ行こう!

平成8年(1996)
ピーター・グリーナウェイの枕草子
GONIN 2

平成11年(1999)
あつもの 杢平の秋
流星

平成12年(2000)
殺し

平成13年(2001)
歩く、人

平成15年(2003)
ミラーを拭く男

平成16年(2004)
隠し剣 鬼の爪
Last Quarter下弦の月

平成17年(2005)
ミラクルバナナ
蝉しぐれ

平成18年(2006)
長い散歩
武士の一分
佐賀のがばいばあちゃん

平成20年(2008)
ゲゲゲの鬼太郎
 千年呪い歌



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