火宅の人
愛の遍歴に燃え、家庭の危機に身を焦がし、そして―さらなる天然の旅情へ

1986年 カラー ビスタサイズ 132min 東映
プロデューサー 豊島泉、中山正久 企画 高岩淡、佐藤雅夫 監督、脚本 深作欣二 脚本 神波史男
原作 檀一雄 撮影 木村大作 照明 増田悦章 音楽 井上尭之 美術 佐野義和、秋好泰海
編集 市田勇 録音 平井清重
出演 緒形拳、いしだあゆみ、原田美枝子、松坂慶子、利根川龍二、岡村真美、檀ふみ、石橋蓮司
井川比佐志、荒井注、下絛アトム、山谷初男、宮内順子、真田広之、岡田裕介、蟹江敬三


 酒と放浪とロマンを求め続けた「最後の無頼派作家」檀一雄原作の同名小説を『上海バンスキング』の深作欣二監督が映画化。家庭を捨て、新劇女優と同棲するなど、自由奔放な作家の生き方を『逆噴射家族』の神波史男と深作監督が脚本を共同執筆して完成した。10年来、映画化を温めていながら作品の難しさから、なかなか東映の岡田茂会長より承諾が得られなかっただけに思い入れが強い。東北から九州まで放浪する主人公が訪れた全国各地の日本縦断ロケを敢行。『夜叉』の木村大作カメラマンによって美しい自然と壮大な映像を生み出している。主人公に『鬼畜』『復讐するは我にあり』など個性的な役に挑む緒形拳、彼を取りまく女優陣には『駅 STATION』のいしだあゆみ、『蒲田行進曲』の松坂慶子、そして緒形と激しい痴話喧嘩シーンで体当たりの演技を披露した原田三枝子といった演技派女優がまさに壮絶な競演を果たしている。


 作家、桂一雄(緒形拳)は、最初の妻リツ子に死なれ、後妻としてヨリ子(いしだあゆみ)をもらった。ヨリ子は腹ちがいの一郎をはじめ5人の子供を育ててきた。ある夏、子供の次郎が日本脳炎にかかり、言葉も手足も麻痺してしまう。昭和31年の夏、一雄の忙しい時に原稿の清書を手伝ったりしていた新劇女優、矢島恵子(原田美枝子)と事をおこしてしまう。一方、ヨリ子は次郎の病気以降、怪しげな宗教の力にすがるようになっていた。一雄から、恵子の事を打ち明けられたヨリ子は、翌日家出した。それでも一雄は若々しい恵子との情事のとりこになっていった。ある嵐の夜、ヨリ子は子供たちのために生きる覚悟を決めたと言って戻ってきた。しかし、一雄は家を出て浅草の小さなアパートで恵子と新しい生活をはじめる。その後、二人のアパートが空巣の被害にあい、更に恵子が妊娠するという事態に陥る。ある夜、二人は派手な喧嘩をして一雄は逃げるように東京を離れ五島列島行の連絡船にとび乗った。彼はそこで、京都で怪我をした時介抱してくれた女性、葉子(松坂慶子)に再会した。義父に犯された暗い過去を持つ彼女は、10年ぶりに里帰りしたのだ。葉子は、あてのない一雄の旅の道連れとなったが、クリスマスの夜、求婚されていた華僑への返事をこれ以上のばせないと一人で旅立って行った。東京へ戻り、久々に正月を家族と過ごすことになった一雄のもとに、次郎の死が知らされる。再び我が家へ戻る決意をする一雄に子供たちは無邪気に抱きつくのだった。


 多分、深作欣二監督作品だからだろうか…文芸映画というよりも男女の恋愛悲喜劇といったイメージが強い。昭和を代表する文芸作家・壇一雄の私小説を映画化した本作。妻子がいながらも愛人を持ち、その愛憎のもつれに疲れ果てた旅先で他の女性と関係を持ってしまう小説家…言わば男の情けなさが際立ち、壇の推し進めてきた日本浪漫主義運動とは少々異なる作品となっているのは確かだ。まずオープニングのタイトルバックで井上尭之による歌謡曲(風の)テーマ曲が流れる。成瀬巳喜男監督ならばクラシックを使用するところだろうが、なるほど…そこで深作監督の狙いが分かった。あっ、深作監督は一人の男と三人の女による戦後の昭和風物詩を描きたかったんだろうな。冒頭に表示される「煩悩に身を焦がし不安の絶えないさまを火災にあった家にたとえて“火宅”という」と予め説明される通り“火宅”に生きる男と女の壮絶な愛憎劇がドラスティックに時にユーモラスに描かれる。深作監督は主人公・桂一雄(壇一雄自身)を取り巻く三人の女性に重点を置いて主人公を狂言回し的な役にする事で、無頼派と称される浪漫主義の作品を商業映画として成立させていた。当時、東映の岡田茂社長が完成した作品を観て「浮気ドラマとして見事だ」と褒めていたという笑えるエピソードがそれを物語る。岡田社長の感想は極端だとしても劇中に登場する太宰治や中原中也と異なり、壇一雄は滅びの美学というよりも下世話に生きていく(生への執着心)タイプの作家であるから、あながち深作監督の方法論は間違っていないと思うのだが。
 ところがこれが良かった。桂を演じた緒形拳が三人の女優陣の演技を上手く受け止めながら実に鮮やかで素晴らしい立ち回りを見せているのだ。緒形は主役でありながら、あくまで受け身の演技に徹し、彼に関わる妻ヨリ子、愛人の恵子、旅先で出会う行きずりの女・葉子…三者三様の女性の女性たちの間をゆらゆらと浮遊するばかり。そのおかげで彼女たちの人間性がより克明に浮き立たせる事に成功していた。(本作を観た時、降旗康男監督作品『駅/STATION』の対極に位置する作品だな…と思った)最初、田舎娘丸出しの恵子が次第に垢抜けてしたたかな部分を見せ始める(化ける…と表現した方が正しいか)ところに女の怖さを感じさせる。小悪魔的な表情を見せる原田美枝子の演技が素晴らしくホテルで逢引きをしているところに突然やって来る桂の子供たちに対して後ろめたさを感じながらも罪悪感を持っていないのが立ち振る舞いで伝わってきたのが良かった。桂との壮絶な痴話喧嘩(まさに体当たりの)からも判る通り、恵子のイメージは激情型の動。それに対して石田あゆみ演じる妻ヨリ子は夫の浅はかな行動を全て知った上で静の仮面で感情を包んでいる。夫の浮気を告白された後、家を出て行きながら子供たちのために再び帰ってくるものの夫婦としての関係は持たないと言いのけ、その後の夫の行動も顔色ひとつ変える事なく成り行きを傍観している。印象に残るのは恵子との再会のシーン。本来ならば横っ面を引っ叩くところをまるで悪さをした子供を嗜めるように頭をペチンと叩くのだ。これは石田の考えだったらしいが、妻が愛人を見下しているという意識を見事に表していた。
 印象に残るのはラストシーン。恵子と決別した桂がかつて旅先で撮影した記念写真を公園の池に破り捨てると子供を連れた妻ヨリ子が通り掛かる。「父は何を捨てたの?」と覗こうとする子供たちを全てを悟ったヨリ子がそれを制する。「あなたの事は何でもお見通しですから…」という言葉を発して微笑む妻の姿が怖くもあり、ある意味ホッとさせられるシーンだ。そして桂は4人の子供たちを抱きかかえ「困った!困った!重くて困った!」と戯れながら家路につく。ここで何かから解放された気持ちに観客もさせられる不思議な味わいの非常に良く出来た終わり方だったと思う。

「困った!困った!重くて困った!」息を切らせながら子供たちを抱えて歩き出す主人公のラストに救われた気がした。


レーベル:東映
販売元:東映ビデオ
メーカー品番: DSTD-2196 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 4,253円 (税込)

昭和43年(1968)
セックス・チェック
 第二の性

昭和44年(1969)
永訣 わかれ
風林火山
わが恋わが歌
七つの顔の女

昭和46年(1971)
婉という女

昭和48年(1973)
必殺仕掛人
 梅安蟻地獄

昭和49年(1974)
必殺仕掛人
 春雪仕掛針
砂の器
狼よ落日を斬れ
 風雲篇・激情篇・怒濤篇

昭和52年(1976)
太陽は泣かない

昭和52年(1977)
八甲田山

昭和53年(1978)
鬼畜

昭和54年(1979)
復讐するは我にあり

昭和55年(1980)
復活の日
わるいやつら
影の軍団 服部半蔵

昭和56年(1981)
北斎漫画
魔界転生
ええじゃないか
太陽のきずあと

昭和57年(1982)
野獣刑事

昭和58年(1983)
楢山節考
魚影の群れ
オキナワの少年
陽暉楼
 

昭和60年(1985)
薄化粧

MISHIMA:A Life In Four Chapters

昭和61年(1986)
火宅の人

昭和62年(1987)
女衒
吉原炎上

昭和63年(1988)
優駿 ORACION
ラブ・ストーリーを君に
孔雀王
華の乱

平成1年(1989)
将軍家光の乱心 激突
社葬
座頭市

平成3年(1991)
咬みつきたい
グッバイ・ママ
陽炎
大誘拐 RAINBOW KIDS 

平成4年(1992)
おろしや国酔夢譚
継承盃

平成5年(1993)
国会へ行こう!

平成8年(1996)
ピーター・グリーナウェイの枕草子
GONIN 2

平成11年(1999)
あつもの 杢平の秋
流星

平成12年(2000)
殺し

平成13年(2001)
歩く、人

平成15年(2003)
ミラーを拭く男

平成16年(2004)
隠し剣 鬼の爪
Last Quarter下弦の月

平成17年(2005)
ミラクルバナナ
蝉しぐれ

平成18年(2006)
長い散歩
武士の一分
佐賀のがばいばあちゃん

平成20年(2008)
ゲゲゲの鬼太郎
 千年呪い歌



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