古都
百恵・フィナーレ

1980年 カラー スタンダードサイズ 125min 東宝
製作 堀威夫、笹井英男 監督、脚本 市川崑 脚本 日高真也 撮影 長谷川清 照明 加藤松作
美術 坂口岳玄 音楽 田辺信一 録音 大橋鉄矢 編集 長田千鶴子
出演 山口百恵、實川延若、岸恵子、三浦友和、北詰友樹、沖雅也、石田信之、加藤武、浜村純
小林昭二、常田富士男、泉じゅん、宝生あやこ、山本ゆか里、三條美紀、富沢亜古、八木景子


 別々に生きて来た瓜二つの姉妹の出会い、そして孤独と愛情、娘心の哀歌、親と子のつながりを華麗に浮き彫りにした三浦友和との結婚、引退を表明したスーパースター山口百恵の最後の主演作品である。川端康成原作の『伊豆の踊子』で昭和四十九年に初主演を飾った山口百恵は女優として成長し、同じく川端康成原作の『古都』で成熟した姿を披露して有終の美を飾った。本作は昭和三十八年、中村登監督によって、松竹で一度、岩下志麻主演によって映画化されている。監督は『ビルマの竪琴』『犬神家の一族』の市川崑、脚本は『病院坂の首縊りの家』の日高真也と市川監督の共同執筆、撮影も市川監督と金田一シリーズを手掛けてきた長谷川清が担当している。共演は、市川監督作品の常連『おとうと』『悪魔の手毬唄』の岸恵子、映画初出演となる歌舞伎俳優の實川延若、金田一シリーズでお馴染みの加藤武、小林昭二、常田富士男、三條美紀らが脇を固めている。


  佐田千重子(山口百恵)は京呉服問屋の一人娘として何不自由なく美しく育った。千重子は中学生のとき、父母から実子でないことを知らされた。祇園の夜桜の下に寝かされていた赤ん坊があまり可愛いので、悪いと知りながら盗んだと母は言うが、千重子と父母の関係は、実の親子以上の愛で結ばれていた。ある日、千重子は友だちの正子と、清滝川沿いの北山杉の村に行くと、自分とそっくりな村の娘に出会い驚いた。暫くして、祇園祭に賑わう宵山の晩「御旅所」にお詣りに行った千重子は、そこで、七度詣りをしている瓜二つの娘と再会する。苗子(山口百恵)と千重子は双児の姉妹だったのだ。二人の父は北山杉の職人で、生活苦で千重子のほうを捨てたが、間もなく杉から落ちて死に、母もつづいて病死した。孤児になった苗子は北山杉の持ち主の世話になり、今もそこで働いている。苗子は、環境の違う姉の幸福をこわさない心づかいで、雑とうの中に姿をかくした。八月の末、苗子と再会した千重子は、二人のことを父母に打ち明けた。父母は温かく苗子を家に迎えてもいいと言う。粉雪が舞う夜、苗子が千重子を訪れた。床の中で千重子は妹に言った。「苗さん、私は私。どっちの幻でもあらしません。好きな人がいやはったら結婚おしやす。私も結婚します」夜明けに帰る苗子を見送った千重子は「また、来とくれやすな」と声をかける。しかし、首を振る苗子。苗子は、結局二人は別々に生きるより仕方がない運命を知っていた。


 キュッキュッ…シャーッ。唐織りの着物がこすれあう摩擦音から始まる『古都』は音の映画だ。京呉服の老舗問屋を舞台に巨匠・市川崑監督は幾つもの音を丁寧に重ね合わせて物語を綴る。それは手機織りのリズミカルな音だったり、鴨川の緩やかなせせらぎや風にさざめく北山杉音だったり…。そして、タイトルバックに流れる山口百恵の透明感溢れる歌声に「そうか…これが山口百恵最後の映画なのだ」と感慨深く思う。かねてより「山口百恵で映画を撮りたかった」という市川監督に東宝とホリプロが提示したのが生き別れた双子の姉妹を描いた川端康成の名作だった。既に中村登監督、岩下志麻主演で映画化されているが、双子(二役)という設定は山口百恵の最後を飾るに相応しいと判断したのだろう。当時は、フィナーレをリメイクの文芸もの?と疑問に思ったのだが、製作サイドのオール山口百恵にしたかったという狙いは成功していた。古典を現代で映像化するために神秘的なアプローチで挑んで市川監督だが、善きにつけ悪しきにつけ監督の作家性が色濃く打ち出され、その中に山口百恵という資質を融合した…そんな印象が残る映画だった。作品の質感としては彼女の主演作の中で最高傑作と言っても良いと思うのだが、悪しきにつけ…と前述したのは本作を「山口百恵フィナーレ」と銘打った場合、市川崑色に埋もれてしまったという印象も否めないからだ。名コンビ長谷川清の撮影によるちょっとアンバーがかった重厚なトーン(シルエットを効果的に使った映像は素晴らしい)や短いカットを挿入するお馴染みの手法や、明朝体のタイトルバック等々、これから殺人事件が起こって金田一が登場するような錯覚に陥ってしまった。(劇中で使用される琴も『犬神家の一族』で高峰美枝子が奏でてたあの曲だ)だからといって彼女の魅力が作家性に埋没しているわけではなく、市川監督が彼女について「さりげなく装いながら裡に秘めた情熱を蓄えてフィルムに対処している」と述べているように、山口百恵は常に映画の中央に凛と存在している
 本作の山口百恵を一言で表すとするならば“艶”だろうか。冒頭、實川延若演じる父を手伝い代々伝わる唐織りの能衣装を飾る手の動き、階下から岸惠子演じる母が客向けに持ってきたお茶が急須に入っていない事に気づいて、ふっと見せる笑みに今までの彼女の映画にはない色気を感じた。北山杉の山中で雷雨に遭遇した彼女が演じる姉妹が重なり合って雨をしのぐ場面で見せる表情の色香は半端ない。前作『天使を誘惑』で女優としての新境地に達した彼女が本作で更に進化した…と言った方が正しいか。中でも運命の悪戯で、裕福な家庭に育った八重子と苦労して育った苗子の双子という二役の微妙な違いを見せる演技は見事。単にメイクの違いだけではなく捨て子の八重子に対する罪悪感のようなものを抱いた苗子の遠慮がちな仕草が秀逸だった。また、育った環境の違いによる顔つきの差を市川監督は的確に表しており、八重子は現在の山口百恵であるのに対し、苗子の方は『潮騒』当時にまで遡った山口百恵の印象がある。…といった意味においても本作は正に山口百恵の集大成となるフィナーレに相応しい作品となっていた。

上等の帯をもらっても絞める機会はあるだろうか…と言う苗子に千重子が答える「人の行き先はわからしまへんえ」


ビデオ、DVD共に廃盤後、未発売
昭和48年(1973)
としごろ

昭和49年(1974)
伊豆の踊子

昭和50年(1975)
潮騒
花の高2トリオ
 初恋時代
絶唱
お姐ちゃんお手やわらかに

昭和52年(1976)
エデンの海
風立ちぬ
春琴抄

昭和52年(1977)
泥だらけの純情
霧の旗

昭和53年(1978)
ふりむけば愛
炎の舞

昭和54年(1979)
ホワイトラブ
天使を誘惑

昭和55年(1980)
古都



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