Wの悲劇
愛、欲望。そして悲劇の方程式。わたしは、スキャンダルな女。

2009年 カラー ビスタサイズ 106min 東宝
製作 角川春樹 プロデューサー 黒澤満、伊藤亮爾、瀬戸恒雄 監督、脚本 澤井信一郎
脚本 荒井晴彦 原作 夏樹静子 撮影 仙元誠三 美術 桑名忠之 音楽 久石譲  主題歌 薬師丸ひろ子
音楽プロデューサー 高桑忠男、石川光 録音 橋本文雄 照明 渡辺三雄 編集 西東清明
出演 薬師丸ひろ子、三田佳子、三田村邦彦、世良公則、高木美保、蜷川幸雄、志方亜紀子
清水紘治、草薙幸二郎、堀越大史、西田健、香野百合子、日野道夫、野中マリ子、仲谷昇


 夏樹静子原作の同名舞台劇『Wの悲劇』の象徴であるWを大胆に解体して、舞台で演じられる物語の展開と、映画内容の展開をそっくりダブらせるという奇抜なWとして再現させた。そしてこれは日本映画では初めての本格的バックステージ・ムービーといえる。ある劇団のトップ女優を支えていたパトロンのアクシデント、そして看板女優の苦悩と劇団研究員であるヒロインとの裏取引…舞台の主人公をめぐる友情と争いと恋をダイナミックに描いている。ヒロイン三田静香を演じるのは本作を最後に角川事務所から独立を決めた『メインテーマ』の薬師丸ひろ子。劇団の看板女優には名実共に大女優として数多くのドラマで主役を張る三田佳子。また、ヒロインに熱烈な思いを寄せる青年に世良公則、劇団の先輩俳優に三田村邦彦といった実力派のキャストが集結。他にも舞台を中心に活躍する俳優陣が脇を固めリアリティを追求している。監督は、長い助監督生活で実績を重ね『野菊の墓』で長編デビューを飾った澤井信一郎が荒井晴彦と共に脚本も担当。また本作で重要なパートを担う劇中舞台の演出には出演もしている演劇界の重鎮である蜷川幸雄が担当しているのが話題となった。撮影は『セーラー服と機関銃』や『愛情物語』といった角川映画を何作も手掛けたベテラン仙元誠三が、今回も緻密に計算された長廻しで観る者を圧倒する。


 劇団「海」の研究生・三田静香(薬師丸ひろ子)は、先輩俳優の五代淳(三田村邦彦)と一晩過ごした翌朝、公園で不動産屋の森口昭夫(世良公則)という青年と知り合う。次回作が女性の悲劇を描いた本格的なミステリー『Wの悲劇』と決定し、事件の鍵を握る主人公を劇団の研究生からオーディションで選ぶと発表された。静香もオーディションを受けるが、ヒロインはライバルの菊地かおり(高木美保)に決定。静香には、セリフが一言しかない女中役と楽屋の手伝いという仕事が与えられた。意気消沈して帰宅した彼女のもとに花束を抱えてやって来た昭夫。二人は飲みに行き、その晩、二人は関係を持ってしまう。いよいよ大阪公演の初日の夜、看板女優・翔(三田佳子)の部屋を訪ねた静香は、思いがけない事件に巻きこまれる。翔のパトロンが、彼女の部屋で突然死んでしまったのだ。この一件で女優生命も終わりかと絶望的になっていた翔は、静香に自分の身代りになる代わりに主人公の役をあげると言い出す。最初は断っていた静香だったが、「舞台に立ちたくないの!」という一言で、引き受けてしまった。翔は約束通り、かおりを強引に役から降ろし、東京公演から静香に主役の座を与えた。そして大成功をおさめた東京公演初日。楽屋を出てレポーターや大勢のファンに囲まれた静香の前に事件の真相を知ったかおりがナイフを手に現われた。「許せない!」と走り込んで来るかおりから静香をかばい、昭夫は代わりに刺されてしまう。数日後、静香は退院した昭夫に別れを告げて、涙をこぼしながら微笑んで去って行った。


 思えば、薬師丸ひろ子が『野性の証明』でデビューしてから、まだ6年しか経っていなかったのだなぁ…と、この映画のクライマックスを見た時、何とも形容し難い感慨深いものを感じた。それは、彼女が演じる三田静香が東京公演初日の舞台を終えて楽屋の階段を降りてくる場面だ。出待ちする大勢のファンと報道のフラッシュに一瞬だけ戸惑いを見せた後、歓喜の表情に変わる…正にそれはただの研究生が女優に変貌した瞬間であり、その時、薬師丸ひろ子の6年とオーバーラップしてしまった。彼女自身インタビューで一番印象に残る作品として本作を挙げて「燃焼しつくしてもうこれ以上、芝居なんて出来ないと思った」という程(キネマ旬報2006年11月下旬号より)、自分の考えていた表現の限界以上のものを求められ、かなり追いつめられた現場だったようだ。それだけにこの場面で浮かべる彼女の笑みは、全てを昇華した主人公とシンクロしたリアルな表情だったのかも知れない。余談だが、あの階段…静香に役を奪われた高木美保演じるかおり(映画初出演ながら最高の演技を披露!)がナイフで襲いかかるあの場所は旧東京宝塚劇場の楽屋口で、当時まさに東京宝塚劇場でバイトをしていた筆者は、その場面をスタッフとして目撃していたのだ。公開されたのは斜向かいの日比谷映画劇場(旧千代田劇場)で『Wの悲劇』は筆者にとって日比谷映画街の思い出につながるのである。話が逸れてしまったが、演技の経験もなかった少女が、たった6年の間にまるでベテランの大女優のような表情が出来るのは、デビュー以来、厳しい要求(相米慎二監督とか、本作の澤井信一郎監督とか…)を常に突きつけられてきたからだろう。
 夏樹静子による戯曲を澤井信一郎監督と荒井晴彦が、劇中劇という二重構造のドラマに作り上げたシナリオがイイ。(カレル・ライス監督の名作『フランス軍中尉の女』を思い出してしまった)劇中のヒロインと、その芝居を演じる現実のヒロインが皮肉にも同じ運命を辿る物語にしたことでオリジナル以上に女性の悲劇性が現実味を帯びた。さすが、マキノ雅弘監督に師事していた澤井監督らしく女性の描き方が上手い。(マキノ監督も任侠映画の中で藤純子が演じる男に翻弄される女の描き方が見事だった)中でも彼女が嘘のスキャンダル会見を行なう場面は素晴らしかった。主役と引き換えに三田佳子扮するスター女優の身代わりとなった彼女は嘘を語っているにも関わらず、いつの間にか真の言葉と錯覚して感情移入してしまう…この巧妙な語り口(特に映画館でハンバーガーを買ってあげた想い出を語る下り)。この会見を乗り切らなくては主役になれないという局面において「舞台よりも一世一代の芝居を薬師丸ひろ子の演技が乗り切った」と澤井監督が後のインタビューで述べていた通り、この場面は三田静香と薬師丸ひろ子という二人の女優が交差した瞬間だ。演技プランを考えてくるタイプではない薬師丸ひろ子を澤井監督は「ひとつひとつの日常の行動に自立した主体性を持っている」と高く評価している。どんな一手に出てくるか…全く予測出来ないからこそ、薬師丸ひろ子の演技からは予定調和というものを一切感じないのだろう。
 オーディションに落ちた静香を励ますため、一杯飲み屋で世良公則演じる昭夫が静香に、以前役者をやっていた友人の話をする場面がある。仙元誠三カメラマンによるゆっくりと位置を変える長回しのカメラワークは日本映画史に残る名場面となった。二人のアップから次第にカメラが引いてゆき、昭夫が友人の話しをし始めたところからゆっくりと横にパンして薬師丸ひろ子に近づく…『セーラー服と機関銃』で渡瀬恒彦の死体に対面した時と同じ役者の心情に寄り添うかのように動くカメラは最高だ。(望遠レンズを多用してくれと頼んだ澤井監督の指示も的確である)薬師丸ひろ子のアップと研究生たちの中の薬師丸ひろ子を俯瞰で捉えた緩急自在のカメラワークもスリリングで実にワクワクする。

「もう一人の自分が泣いちゃいけないって。ここは、笑った方がいいって…」ラストシーンで世良公則演じる昭夫との別れ際に静香が言うセリフ。角川映画最高の名場面だ。


レーベル:角川映画(株)
販売元: 角川映画(株)
メーカー品番: DABA-809 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 2,057円 (税込)

昭和53年(1978)
野性の証明

昭和54年(1979)
戦国自衛隊

昭和55年(1980)
地球へ…
翔んだカップル

昭和56年(1981)
ねらわれた学園
セーラー服と機関銃
セーラー服と機関銃(完璧版)

昭和57年(1982)
装いの街

昭和58年(1983)
探偵物語
里見八犬伝

昭和59年(1984)
Wの悲劇
メイン・テーマ

昭和60年(1985)
野蛮人のように

昭和61年(1986)
キャバレー
紳士同盟

昭和63年(1988)
ダウンタウンヒーローズ

平成1年(1989)
レディ!レディ!

平成2年(1990)
タスマニア物語
病院へ行こう

平成4年(1992)
きらきらひかる

平成5年(1993)
ナースコール

平成9年(1997)
マグニチュード
 明日への架け橋

平成15年(2003)
木更津キャッツアイ
 日本シリーズ

平成16年(2004)
オペレッタ狸御殿
レイクサイド マーダーケース
鉄人28号

平成17年(2005)
ALWAYS 三丁目の夕日
あおげば尊し

平成18年(2006)
木更津キャッツアイ
 ワールドシリーズ
バブルへGO!タイムマシンはドラム式
ありがとう

平成19年(2007)
ALWAYS 続三丁目の夕日
うた魂
めがね

平成21年(2009)
ヘブンズ・ドア
今度は愛妻家

平成22年(2010)
わさお
ハナミズキ

平成24年(2012)
ALWAYS 三丁目の夕日'64



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