人のセックスを笑うな
恋におちる。世界がかわる。19歳のボクと39歳のユリのいかれた冬の物語。

2007年 カラー ビスタサイズ 137min 東京テアトル、ハピネット、WOWWOW
プロデューサー 永田芳弘、西ケ谷寿一 監督、脚本、編集 井口奈己 脚本 本調有香 撮影 鈴木昭彦
照明 山本浩資 美術 木村威夫 編集 増原譲子、海野敦 音楽 HAKASE-SUN 原作 山崎ナオコーラ
出演 永作博美、松山ケンイチ、蒼井優、忍成修吾、桂春團治、温水洋一、あがた森魚、市川実和子、
藤田陽子、Mari Mari、木村文明、ニューマリオネット、杉目梓、玉井紅帆、本木夕貴、ジム・マギー


 『犬猫』でその才能が世界的に注目されていた井口奈己監督の待望の新作。その透明感あふれる類まれな映像センス、役者の本来の魅力を引き出す演出力は、さらに輝きを増し、井口ワールドは大きくスケールアップ、青春恋愛映画の傑作が誕生した。主人公の自由奔放な美術講師ユリを演じたのは、『好きだ、』や『腑抜けども、悲しみの愛をみせろ』等、その透明感のある美しさと演技力が高く評価されている永作博美。そして、彼女に恋する美大生に『デスノート』で大ブレイクした松山ケンイチが、初の本格的な恋愛映画に挑戦。「永作さんを、今まで見たことのないファムファタールに。そんな永作さんに振り回される松山さんを、史上最強にかわいく撮る!が使命でした。」と井口監督の言葉通り、2人のキスシーンは、本当の恋をしているかのようなリアルさで、観る者を幸せな気持ちにさせる。他にも『フラガール』などで日本アカデミー賞、ブルーリボン賞など昨年の演技賞を総なめにした実力派・蒼井優と『犬猫』でも好演した忍成修吾等、豪華なキャスティングが実現した。原作は、「思わず嫉妬したくなる程の才能」と選考委員に絶賛された、山崎ナオコーラの文藝賞受賞作。井口監督が、ベテランの本調有香と脚本を共同執筆し、リアルでユーモアあふれるオリジナルな作品を作り上げた。現場スタッフの7割が女性という井口組。優しさと男気が同居する独特の空気は、井口監督ならではのしなやかで繊細な演出を可能にした。美術は、鈴木清順ら多数の名監督たちを支えてきた日本映画界の巨匠・木村威夫。衣装は「InRED」などで活躍中のスタイリスト・橋本庸子が担当。手編み、リメイクなど美術学校生らしいオリジナルなコーディネート中心で、思わず真似したくなる可愛さ。音楽は、日本屈指のレゲエ・キーボーディストのHAKASE-SUN。かつて在籍したフィッシュマンズの名曲「MY LIFE」を、MariMariとともにカバー、切ないラストを鮮やかに飾る。


※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
 夜明け前の冬の山道。地元の美術学校に通うみるめ(松山ケンイチ)と堂本(忍成修吾)、えんちゃん(蒼井優)の三人が、二人乗りの軽トラックを走らせているとトンネルで、ユリ(永作博美)と出逢いバス停まで送ってあげる。ある日、校内の喫煙所で、みるめはユリと再会する。ユリはみるめの通う美大に最近赴任してきたリトグラフの非常勤講師だった。リトグラフ教室へ足繁く通うようになったみるめは、ある日ユリに絵のモデルを頼まれる。みるめは彼女のアトリエを訪れるようになり、そのまま関係を持つことになった。うれしそうに、えんちゃんにユリとの関係を告白するみるめだったが、ユリの実家を訪ねた際、彼女に夫がいたことを初めて知らされ、ショックを受ける。そんな、みるめへの想いのやり場をなくし、落ち込むえんちゃんだったが、みるめに「会いたければ会えばいい」と、自分の気もちに反して、彼の背中を押してしまう。もうユリには会わない、と決めたはずのみるめだったが、えんちゃんの言葉に促され、ふたたびユリのもとへ。そんなみるめを、前と変わらぬ様子で受け入れるユリ。しかし、数日後…ユリが学校を辞めたことをえんちゃんに知らされ、みるめは呆然としてしまう。アトリエからも、家からも、ユリの姿は消えていた。


 カメラを固定して長廻しで役者のナチュラルな演技を引き出す。それが、最近の若手監督が作る日本映画の風潮でもある。ヘタするとダラダラと撮りっぱなしの流しっぱなし…正直、学生の自主映画みたいなものが氾濫しているのも事実。だが、芸達者の永作博美を主役として若手の実力派・蒼井優と松山ケンイチを揃えた本作は、長廻しのワンカットがあまりにもリアル。各々の気持ちが、少しずつくっついたり、ズレたり、交差したり…それが、まるで台本が存在しないごとくセリフが自然体で俳優たちの口から発っせられるのが面白い。美大に通う男女の恋愛模様が、自分の身近で起こっているように描かれる。永作博美演じるリトグラフの臨時講師ユリに松山ケンイチ演じる学生・みるめが、モデルを頼まれて初めて彼女のアトリエを訪れた時に、いきなり全裸になるように指示されヲタついてしまう。そんなユリとみるめの間に流れる空気感がたまらなく好きだ。服を一枚脱ぐごとに「えっ?これも脱ぐんですか?」と戸惑うみるめに「オーイエス!」と促すユリ…本当に一枚ごとに距離が縮まる感じが何とも言えない緊張感を醸し出す。最近、大人の女を演じるのが多くなった永作博美…彼女の演技の幅というのはどこまで広いのだろうか?教え子を悪びれる様子もなく誘ってしまう天真爛漫な人妻(彼女が人妻である事は映画の中盤で明かされるのだが…)を演じる彼女の表情は悪女というより小悪魔そのもの。あの童顔から、どうして艶めかしい女の色気を出せるのか不思議でならない。ただ演技が上手いという表現では片付けられない魅力が彼女の内にあるのだ。煮え切らないみるめに苛立ちながらも片思いを続けるえちゃん・蒼井優の演技は対極に位置しており、さすが若手ナンバーワンの実力派だけのことはあるリズミカルな演技は観ていて心地良い。例えば、恋のライバルであるユリの個展に一人で現れた彼女は作品を見ずにテーブルのお菓子をマジ食いし始めるシーンがある。延々と無言で食べる姿をカメラは固定で映しているだけ…なのだが、これが何故か飽きない。一方で、二人の女性に挟まれて勝手に悩みイラついて(果てには自爆して)しまう松山ケンイチが一人で勝手に暴走したり、空回りしている様が面白いけど、リアルな描写だけに同性として切なくなる。
 この手のドラマの重要なポイントはどれだけ観客が感情移入できるかに尽きる。あまりストーリーが劇的で「ありえない」と思われたら最後…スクリーンと客席に大きな隔たりが生まれてしまう。だからこそシナリオも勿論だが、出演者たちの演技力の比重が高い。永作博美は『好きだ、』でその自然体の演技は証明済みだし、蒼井優はデビュー作『リリィシュシュのすべて』からリアルで高度な演技を既に披露している。この手の演技は女性の方が上手いと思っていたが、煮え切らないで悶々としている男の子みるめを演じる松山ケンイチは最近の若手の中で群を抜いていると改めて感じた。恋愛し始めの男の子が「浮かれたひと時」から一転して「人生のどん底(実は、それほど大した事ではないんだけど)」に突き落とされてしまった時、彼女よりも優位に立ちたいというオスの本能(みるめはユリからかかってくるであろう携帯を封印することで無意味な抵抗を試みる)が、痛いほどよくわかる。彼と悪意なく関係を持ってしまう教師ユリに対する気持ちに整理をつけようがないみるめの行動は、いわば男の直情型生理現象だから仕方ない。ここで疑問なのは女性監督の井口奈己がどうしてこんな男の子の微妙な姿を描けたのか…?みるめが一度封印した携帯が鳴った途端に慌てて開けようとする“いさぎ悪さ”みたいな細かなディテールが上手く描けている事に驚かされる。彼女のアトリエで関係を持ってしまう場面のような臨場感溢れる(この表現で良いのか?)展開に、観客のこちらまでドキドキさせてしまう…さすがである。

「でも触ってみたかったんだもん」夫がいるユリに対して、どうしてみるめと付き合ったのかと言い寄るえんちゃんに対してサラリと答えるユリのセリフ。別に家庭が上手く行っていないとか、そんな理由なんてない…身勝手かも知れないが、このセリフが真実なのだ。

【井口奈己 監督作】
フィルモグラフィー

平成12年(2000)
8ミリ版 犬猫

平成16年(2004)
犬猫



日本映画劇場とは看板絵ギャラリーお近づきに…

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