築地魚河岸三代目
忘れかけていた何か。自分の気持ちに嘘をつかずに生きること。「築地魚河岸」で見つけた本当の幸福

2008年 カラー ビスタサイズ 116min 松竹
プロデューサー 深澤宏、矢島孝 監督 松原信吾 原作 はしもとみつお、鍋島雅治 美術 横山豊
脚本 安倍照雄、成島出 撮影 長沼六男 音楽 本多俊之 照明 中須岳士 編集 石島一秀
出演 大沢たかお、田中麗奈、伊原剛志、森口瑤子、柄本明、伊東四朗、マギー、荒川良々
江口のりこ、温水洋一、峯村リエ、佐野史郎、森下愛子、大杉蓮、六平直政、甲本雅裕、田口浩正


 敷地面積約23万平方メートル、東京ドームの約5倍の広さの中に、水産・青果あわせて約900の仲卸業者が登録され、水産部門の取扱いは世界最大級を誇る、「日本の台所―築地市場」を舞台にした、小学館「ビッグコミック」にて連載中のロングセラーコミック『築地魚河岸三代目』の映画化。主人公・赤木旬太郎を演じるのは、『Life 天国で君に逢えたら』、『ミッドナイトイーグル』など話題作に主演する大沢たかお。実際に父方の祖父が築地市場で仲卸業を営んでいたという縁もあり、水を得た魚のように役に取り組んでいいる。築地魚河岸仲卸の名店「魚辰」の一人娘で、旬太郎の恋人・明日香には、『犬と私の10の約束』と主演作が目白押しの田中麗奈が扮するほか、「魚辰」従業員・英二役に伊原剛志、小料理屋の女将・千秋役に森口瑤子、鮨屋「真田」の主人・正治郎役に柄本明、そして明日香の父で「魚辰」の二代目・徳三郎役に伊東四朗と、個性溢れる実力派キャストが、人情ドラマを盛り上げている。撮影は2007年9月から10月にかけて、築地市場の全面協力のもと、早朝、実際の営業時間での緊張感に溢れた市場内と、東宝スタジオに作られた「魚辰」のセットをメインに行われた。「魚辰」のセット撮影では、周囲10軒程の店並みが再現され、タイ、アジ、アワビ、伊勢エビ、イシダイなどの鮮魚・活魚を築地からトラックで直送。監修のために来ていた仲卸業者が「ここで十分営業できる」と太鼓判を押すほど。どこからがセットでどこからが本物なのか見分けがつかないほど正確に再現。監督は、『なんとなく、クリスタル』、『青春かけおち篇』以来、久々の劇場用映画の演出となる松原信吾。また、『ミッドナイトイーグル』の監督を務めた成島出と『手紙』、『やじきた道中てれすこ』を手掛けた安倍照雄が共同で脚本を担当している。


※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
 赤木旬太郎(大沢たかお)は都内の総合商社に勤務するエリート・サラリーマン。30代半ばにして会社では人事課長に抜擢され、恋人の明日香(田中麗奈)ともそろそろ結婚を考えている。公私とも絵に書いた様な順風満帆の人生のはずだった。ある日、旬太郎は、会社で大掛かりなリストラの陣頭指揮を任される事になる。その対象者リストには、かつて世話になった元上司の名前もあった。やり場のない気持ちをかかえ悩む旬太郎の前を明日香が自転車で走り抜けていった。後を追った旬太郎の前に広がる日本の台所・築地市場。明日香は仲卸の名店「魚辰」の二代目店主・徳三郎(伊東四朗)の一人娘で、体調を崩して入院することになった父の代わりに、店を手伝っていたのだ。一本気な性格の旬太郎は、半ば強引に「魚辰」の手伝いをすることを決心する。はりきって店先に立ったものの、店を訪れるプロの客たちにからかわれたり、冷やかされたりと客に逃げられてばかり。魚河岸は長年培われたしきたりの中で玄人同士が真剣勝負をする場所。ど素人の旬太郎が太刀打ちできるはずもない。10代から店に立ち、魚の目利きは築地市場屈指といわれる「魚辰」従業員の英二(伊原剛志)を始め、周囲の反応も冷ややかだ。それでも、負けず嫌いの旬太郎は、自腹で魚を買い、自分の舌で味を覚えようとする。旬太郎は、繊細な味を見分ける優れた味覚を持っていた。いつしか、旬太郎は、魚河岸の真剣勝負の厳しさや嘘のない優しさ、温かさの中に、サラリーマン生活で忘れかけていた何かを感じはじめていた。旬太郎は、会社に辞表を叩き付け、築地で生きていくという一大決心をする。


 私事だが、筆者の両親は札幌中央卸売市場で魚の仲買と卸しをしていたので、高校を出るまで市場の近くで育った。幼少期は、夏休みといえば両親の職場を遊び場としてラジオ体操の後に毎日直行したものだった。だから上京して、初めて築地市場を訪れた時に、居心地が良くホッとさせられた瞬間、改めて「自分は市場で育ったのだ」と気づいたのだ。そんな築地市場を舞台に築地で働く人々を描いた群像劇『築地魚河岸三代目』は、一人のエリートサラリーマンが、リストラを遂行する担当となり、嫌気がさしていたところに、恋人の父が経営する魚河岸を手伝うようになる。築地に初めて自分の居場所を見い出した主人公は、会社に辞表を叩きつけ、正式に築地で働きたいと申し出る。まるで、高倉健の『居酒屋兆治』を彷彿させる内容だが、本作は主人公が叱られながらも築地の人間として成長していく過程を明るく笑いを交えて描いている。さて、本作は『男はつらいよ』『釣りバカ日誌』に続く松竹の新シリーズになるのか?既に続編が準備されていると早々に告知していたが…。まずは今回が第1作目という事で、出演者たちの紹介エピソードがメイン。物語を膨らませる事はせずに、主人公二人の恋愛模様に焦点を当てている。残念ながら、市場特有の空気感は、伝わってくるほどには至らなかったが、本当の意味での築地市場が主役となるのは、次回以降…となりそうだ。だから、本作には名物のマグロの競りや解体シーンは登場しない。それを物足りないと言うファンもいるだろうが、それでも最後まで築地市場の初心者コースとして楽しめたのは、はしもとみつおの原作コミックの核がしっかりとしているからだろう。主人公を取り巻く築地の職人たちのキャラクターが面白く、原作にはまだまだユニークなごっつい人間がわんさかいるのだから期待もひとしお。ポップな作品を多く手掛けきた松原信吾監督だけに全編松竹大船調を意識してか、観ていて楽しいプログラムピクチャーを久しぶりに堪能できる。
 主人公を演じる大沢たかおも、今や松竹の看板女優みたいに主演作が目白押しの田中麗奈も各々の持ち味をしっかりと出しており観ていて安心。実は、この手の映画には、この安心感が大切で良い意味で観客の想像と先読みを裏切ってはいけないのである。だから、大沢たかおは、最後まで好青年のままで、苦難にも真っ正面から立ち向かっていくし、田中麗奈は勝ち気な魚河岸の娘で平気で父親に楯突いている。こうした分かりやすい設定がシリーズ化を存続させるポイントなのだと思う。意外な展開は4作目くらいでちょうど良いのだ。本作で唯一シリアスな役を一手に引き受ける伊原剛志の抑制の効かせた渋い演技は、対象的で良いバランスを生み出していた。私の両親の店にも彼のような強面の兄ちゃんがいたのだが、一番優しくて遊び相手になってくれたのを懐かしく思い出す。伊藤四郎の父親も温かみが溢れており、娘役の田中麗奈や柄本明演じる親友との掛け合いは実に楽しい。また、食べ物を扱った映画のお約束である料理や刺身の紹介は観ていてお腹が鳴ってしまうほど。中でも、荒川良々が作る“鰹のガワ丼”は是非、作ってみたい逸品。パンフレットにレシピが掲載されているのでチャレンジしたいと思う。

「ここは玄人がやりあう場所なんだ」築地にはルールというものが当たり前だが存在する。井原剛志演じる市場に骨を埋める男のセリフは築地に土足で踏み込む無礼な観光客へ向けたセリフだろうか?

【松原信吾 監督作】
フィルモグラフィー

昭和56年(1981)
なんとなく、クリスタル

昭和62年(1987)
青春かけおち篇

平成20年(2008)
築地魚河岸三代目



日本映画劇場とは看板絵ギャラリーお近づきに…

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