一命
なぜ男は切腹を願い出たのか。世界を圧倒した衝撃の超大作。

2011年 カラー シネマスコープ 126min 松竹配給
プロデューサー 中沢敏明、ジェレミー・トーマス 監督 三池崇史 脚本 山岸きくみ 音楽 坂本龍一
原作 滝口康彦  撮影 北信康 美術 林田裕至 衣裳 黒澤和子 照明 渡部嘉 録音 仲村淳
出演 市川海老蔵、瑛太、役所広司、満島ひかり、竹中直人、青木崇高、新井浩文、波岡一喜
笹野高史、中村梅雀、大門伍朗、斎藤歩、高橋一平、平岳夫、天野義久

2011年10月15日(土)全国ロードショー2D・3D同時公開中
(C)2011映画「一命」製作委員会


 1952年に発表され、1968年には『切腹』として映画化された滝口康彦の“異聞浪人記”を原作に『十三人の刺客』の鬼才・三池崇史監督が武士の誇りと家族愛を心の内面に奥深く迫るアプローチで切り開いた時代劇。本年度のカンヌ国際映画祭で上映されるや、怒涛のストーリー展開、鬼気迫る役者陣の演技、緊迫感あふれる映像美、衝撃の結末に観客は騒然となり、スタンディング・オベーションは鳴りやむことがなかった衝撃作である。主演は、比類なき存在感と天賦の才で他を圧倒する『出口のない海』の市川海老蔵と、繊細な演技に定評のある『大鹿村騒動記』の実力派俳優・瑛太。そして、注目の若手女優『悪人』の満島ひかり、日本を代表する『最期の忠臣蔵』の演技派俳優・役所広司らの渾身の演技が交錯し、圧巻の人間ドラマを生み出した。音楽を『ラストエンペラー』『シルク』の坂本龍一が担当。スタッフには、米国アカデミー賞受賞者たちが集結。プロデュースに『おくりびと』の中沢敏明と『ラストエンペラー』のジェレミー・トーマス、そして音楽は『戦場のメリークリスマス』の坂本龍一が手掛ける。世界最新の3Dシステムを駆使して生み出された作品世界が、まるで日本画の中、物語の場に同席するかのような緊張感と臨場感を作り出した。


※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
 戦国の世は終わり、平和が訪れたかのようにみえた江戸時代初頭、徳川の治世。その下では大名の御家取り潰しが相次ぎ、仕事も家もなくし生活に困った浪人たちの間で“狂言切腹”が流行していた。それは裕福な大名屋敷に押し掛け、庭先で切腹させてほしいと願い出ると、面倒を避けたい屋敷側から職や金銭がもらえるという都合のいいゆすりだった。そんなある日、名門・井伊家の門前に一人の侍が、切腹を願い出た。名は津雲半四郎(市川海老蔵)。家老・斎藤勘解由(役所広司)は、数ヶ月前にも同じように訪ねてきた若浪人・千々岩求女(瑛太)の、狂言切腹の顛末を語り始める。武士の命である刀を売り、竹光に変え、恥も外聞もなく切腹を願い出た若浪人の無様な最期を…。そして半四郎は、驚くべき真実を語り出すのだった。


 市川海老蔵扮する浪人が切腹するために中庭を貸して欲しいと井伊家の門を叩く。この冒頭に出てくる玄関の構図がイイ。片や関ヶ原で徳川に付いて成功した大名、片や豊臣家に付いたため潰された大名に仕えていた浪人。まるで、訪問者を威圧するかのように立ちふさがる墨で描かれた牛の屏風絵を真正面に据えたカメラが素晴らしい。美術監督・林田裕至がゴシックホラーをイメージしたという燻し銀の重厚な装飾は素晴らしいの一言に尽きる。井伊家にある赤備えの鎧にしてもそうだが中身の無い鎧や絵に描いた牛も物語の核となる竹光も何ら変わらない偶像にしか思えない。三池崇史監督による時代劇のリメイクが続くが前作『十三人の刺客』が武士道のカタルシスを描いていたのに対し、本作は武士道へのアンチテーゼとなっていたのが興味深い。前者はアクション重視で細かなカット割りを重ねてスピード感を出していたが本作は武士道のメッキを剥がそうとするかの如くカメラはじっくりと対象となる者を捉えて離さない。三池監督が昭和37年に制作された仲代達矢主演の『切腹』のリメイクに取り掛かっているという一報に“あぁナルホド…それってアリだなぁ〜”と納得した記憶がある。戦国時代から数十年が経過して大平の世となった江戸時代初頭。劇中、狂言切腹の舞台となる井伊家の家老に扮した役所広司が若い侍たちを指して「家中の者で関ヶ原も大阪夏の陣も知らないヤツも増えてきた」というセリフが象徴するように世代交代の過渡期となる時代だ。天下太平とはあくまでも徳川に付いていた藩の者だけで豊臣側に付いた(現代風に言えば正に負け組)大多数の武士たちは貧困に喘いだ暮らしを余儀なくされていたのだ。戦後の高度経済成長期の中においても日本国内は混乱が続き資本主義の勝者が弱者を踏み台にしていた昭和30年代も同様だ。一寸先は闇…とはよく言ったもので果たして自分がどちら側になるのかなんて予想出来ない。正に今の時代に似ていないだろうか?切腹という武士としての神聖な行為を汚した事に対する怒りが嘲るという感情にすり替わった時に見えるエリート意識が現代社会に共通するように感じるのだ。
 また本作の特筆すべき点は出演者全ての演技と適材適所…多分、この人以外では無理であったろうと思われる完璧なキャスティングだ。最初はミスキャストでは…?と唯一感じていた満島ひかり演じる美穂でさえ、惨たらしい姿(竹光の脇差しで切腹しようと何度も腹を突いた)で帰ってきた夫の死体を前に見せる狂気は彼女でしか表現出来なかった。また狂言切腹をする浪人を蔑む沢潟彦九郎を演じた青木崇高は群を抜いたヒールであり、彼の冷酷な表情があればこそ後半が活きていたのは間違いない。こうした素晴らしい俳優陣を適所に配置して出来上がった舞台でクライマックスに向かう三池監督の手法は相変わらず見事だ。海老蔵演じる津雲半四郎がいよいよ切腹する時の盛り上がりに時代劇の真髄を見た気がした。勿論、さすが歌舞伎役者の海老蔵ならではの迫力があればこそ…なのだが。皮肉にも本来の武士道から外れた家老を演じた役所広司は『最後の忠臣蔵』で対照的に武士道を貫き殉死する男を演じている。是非、併せてご覧いただきたい。

「拙者はただ生きて春を待っていただけだ」ささやかな幸せの中で願う夢すら叶えられなかった半四郎のセリフ。

【三池 崇史監督作品】

平成7年(1995)
第三の極道
新宿黒社会チャイナマフィア戦争

平成8年(1996)
極道戦国志 不動

平成9年(1997)
岸和田少年愚連隊
 血煙り純情篇
極道黒社会

平成10年(1998)
中国の鳥人
アンドロメデイア
岸和田少年愚連隊
 望郷

平成11年(1999)
日本黒社会
サラリーマン金太郎
DEAD OR ALIVE
 犯罪者

平成12年(2000)
オーディション
漂流街
DEAD OR ALIVE2
 逃亡者

平成13年(2001)
ビジターQ
天国から来た男たち
殺し屋1

平成14年(2002)
DEAD OR ALIVE FINAL
カタクリ家の幸福
荒ぶる魂たち
新・仁義の墓場
極道聖戦
金融破滅ニッポン
 桃源郷の人々
SABU さぶ

平成15年(2003)
許されざる者
極道恐怖大劇場
 牛頭 GOZU

平成16年(2004)
着信アリ
ゼブラーマン
IZO

平成17年(2005)
妖怪大戦争

平成19年(2007)
スキヤキ・ウエスタン
 ジャンゴ
クローズZERO

平成21年(2009)
ヤッターマン

平成22年(2010)
十三人の刺客
ゼブラーマン
 ゼブラシティの逆襲

平成23年(2011)
一命
忍たま乱太郎



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