くちづけ
神さま、もう少しだけ一緒にいさせて―。

2013年 カラー ビスタサイズ 123min 東映配給
プロデューサー 松村英美、神康幸、市山竜次 監督 堤幸彦 脚本、原作 宅間孝行 撮影 班目重友
音楽 朝川朋之 主題歌 熊谷育美 照明 川里一幸 美術 相馬直樹 録音 臼井久雄 編集 伊藤伸行
出演 貫地谷しほり、竹中直人、宅間孝行、田畑智子、橋本愛、岡本麗、嶋田久作、麻生祐未、平田満
宮根誠司、伊藤高史、谷川功、屋良学、尾畑美依奈、万田祐介

2013年5月25日(土)全国ロードショー
(C)2013「くちづけ」製作委員会


 原作、脚本は、『花より男子』『愛と誠』などのヒットメーカー宅間孝行。笑いと涙を巧みに織り込んで、心地よくラストへ観客を運んでくれるストーリーテラーである宅間が、実際にあった事件を元に、2012年に解散した自身の劇団〈東京セレソンでラックス〉のために書き下ろし、24.000人もの観客を号泣の海に溺れさせた珠玉の戯曲を、『トリック』や『SPEC』など優れたエンターテインメント作を生み出し続ける一方で、認知症を煩った男の物語『明日の記憶』や、ホームレスの日常を描いた『MY HOUSE』などの社会派作品を手がけてきた堤幸彦監督が映画化。30歳のカラダに7歳の心をもった、天使のように無垢な娘マコを演じるのは『包帯クラブ』の貫地谷しほり。漫画への思いを諦めてまで娘マコに尽くす愛情いっぽんに、『まぼろしの邪馬台国』の竹中直人。そして、ひまわり荘の住人、うーやんに宅間孝行、『桐島部活やめるってよ』の記憶も新しい新鋭・橋本愛や、舞台版にも出演している伊藤高史、尾畑美依奈が脇を固めている。


※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
 かつて「長万部くん」というヒット作を生み出した漫画家・愛情いっぽん(竹中直人)には、知的障害のひとり娘マコ(貫地谷しほり)がいた。自立できるよう施設に入れようとしても、いつもすぐに逃げ出してしまう繊細なマコと共に、いっぽんは「ひまわり荘」という自立支援を目的としたグループホームに、住み込みで働くことにする。それまで、いっぽん以外の男性をこわがっていたマコが、「ひまわり荘」の住人であるうーやん(宅間孝行)にだけは心を開くという変化が表れた。いつの間にか発作も起こさなくなり、仲間との楽しい日々を過ごしている矢先、いっぽんの身体は癌に侵される。自分が死んだ後のマコの行く末を案じ、いっぽんは、ある決断を下すのだった。


 軽度の知的障害の娘を持つ漫画家・愛情いっぽんと、その娘マコの物語である。映画は施設を抜け出し行方不明となっていたマコが死んでいた事を伝える新聞のアップから始まる。実際に起きた事件(本当はこんな単語を使いたくないが…)を基に演劇集団・東京セレソンデラックスの主宰者だった宅間孝行が書き下ろしたものだ。知的障害者の姿を描いた作品としては、彼らの自立支援をする教育現場を舞台とした山田洋次監督の『学校2』や障害者の兄の行動を心配する妹の日常を描いた伊丹十三監督の『静かな生活』が記憶に残る。堤幸彦監督が描くのは、グループホーム「ひまわり荘」に入居したマコとスタッフや住人との交流、うーやんとの間に生まれる淡い恋…そして、いっぽんのマコに注がれる深い慈しみだ。元々は舞台用に書かれたからだろうか、物語は「ひまわり荘」の吹き抜けとなっている広いリビングを中心に展開。毎日が彼らにとって大事件の連続で、些細な事もみんなでワイワイ…賑やかに進行する。そんなウェルメイドな温かみのある人間ドラマがラストまで続くのだろうと思っていた…中盤までは。
 …が、違った。(原作もそうであろうが)本作で描かれているのは、上辺だけすくったような障害者に対する慈愛精神なんかじゃなく、その根底にあるのは障害者に対して無知・無理解の日本という国家(勿論、我々日本人にも)へ向けた静かな怒りのメッセージだ。岡本麗が扮するホームを手伝っているオバさんが度々世間の厳しい現実を吐き捨てるように言うセリフにこそ本質が隠されている。また、劇中ひまわり荘に出入りする警官の口から明かされるショッキングな事実に衝撃を覚える。それは現代の刑務所には多くの知的障害者が服役しているという事実、そしてその大半が冤罪であろうという事だ。それだけではない。ホームレスの中で、ブルーシートの家を持たず殆ど野宿の放浪生活を送っている大半が知的障害者であるらしいのだ。映画化にあたりグループホームを取材した堤幸彦監督は、そこで「親なき後」という言葉を耳にしたという。そうなのだ…まだサポートしてくれる近親者がいる内は良いのだが、独りになった時、もし彼らが生きる術を知らなかったとしたら?それどころか、自分を弁護出来ない彼らにとって、今の社会は理解する能力を持ち合わせていない。堤監督は本作で正にその問題に真っ向から挑んでいる。
 堤監督は本来、『さよならニッポン』に始まり、『包帯クラブ』や『MY HOUSE』といったメッセージ性の強い作品にこそ絶妙な演出テクニックを発揮しているように思われる。愛情いっぽんを演じる竹中直人には、いつものハジケた演技を封印させて、うーやん演じる宅間孝行から矢継ぎ早に繰り出される言葉の応酬をひたすら受ける側にしたのが良かった。そこで、いっぽんが貫地谷しほり演じるマコ(最高の演技を披露する!)と交わされる会話だったり視線だったりが実に優しく感じられるのだ。父娘二人がベランダで寄り添う姿に微笑ましく思いながらも拭いきれない不安感。いっぽんが最後に下した決断を実行する場面に、全ての思いが凝縮されている。お見事!その一言に尽きる。

「生きて行く術がなかったら、生きて行ける世の中にすべきなんじゃないか?」知的障害者が独りで生きにくい日本の現実に対するいっぽんの心の叫び。

【堤幸彦監督】
フィルモグラフィー

昭和63年(1988)
バカヤロー!
 私、怒ってます

平成7年(1995)
さよならニッポン!

平成9年(1997)
金田一少年の事件簿
 上海魚人伝説

平成10年(1998)
新生トイレの花子さん

平成12年(2000)
ケイゾク

平成13年(2001)
溺れる魚

平成14年(2002)
EGG
2LDK
荒神
HIJIKI
TRICK トリック劇場版
ピカンチ
 LIFE IS HARD だけどHAPPY

平成15年(2003)
恋愛寫眞

平成16年(2004)
ピカンチ
 LIFE IS HARD だからHAPPY

平成17年(2005)
明日の記憶

平成18年(2006)
大帝の剣
TRICK トリック2
サイレン

平成19年(2007)
自虐の詩
包帯クラブ

平成20年(2008)
20世紀少年
まぼろしの邪馬台国
スシ王子!
 ニューヨークへ行く
20世紀少年 第2章
 最後の希望

平成21年(2009)
20世紀少年 最終章
 ぼくらの旗

平成22年(2010)
BECK
TRICK
 霊能力者バトルロイヤル

平成23年(2011)
はやぶさ HAYABUSA

平成24年(2012)
エイトレンジャー
MY HOUSE
堂本剛
 平安神宮公演2011
 平安結祈heianyuk
劇場版 SPEC 天

平成25年(2013)
くちづけ



日本映画劇場とは看板絵ギャラリーお近づきに…

Produced by funano mameo , Illusted by yamaguchi ai
copylight:(c)2006nihoneiga-gekijou