喰女 クイメ
ゼッタイニ、ユルサナイ

2014年 カラー シネマスコープ 94min 東映配給
企画 市川海老蔵、中沢敏明 監督 三池崇史 脚本、原作 山岸きくみ 撮影 北信康 音楽 遠藤浩二
美術 林田裕至、佐久嶋依里 装飾 坂本朗 衣裳 柘植伊佐夫 照明 渡部嘉 録音 中村淳
出演 市川海老蔵、柴咲コウ、中西美帆、マイコ、根岸季衣、勝野洋、古谷一行、伊藤英明

2014年8月23日(土)全国ロードショー
(C)2014「喰女−クイメ−」製作委員会


 歌舞伎界を背負う存在であり、近年は映画俳優としても活躍、日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞している市川海老蔵が、日本映画界を代表するヒットメーカー三池崇史監督と、『一命』に続いて再びタッグを組んだ。選んだ題材は、日本の怪談の原点とも言える「東海道四谷怪談」をモチーフとしたホラー。企画・主演を兼ねた市川海老蔵が演じる“色悪”の魅力が、古典怪談を現代劇にアレンジして、愛憎と狂気のホラー作品を創り上げた。舞台「真四谷怪談」で伊右衛門とお岩を演じることになった恋人たちをめぐり、現実世界と劇中劇で愛憎と怨念が交錯する…という物語を山岸きくみ原作の「誰にもあげない」を彼女自身が脚本を書いて映画化した。共演は『着信アリ』の柴咲コウ、『悪の教典』の伊藤英明。


※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
 舞台「真四谷怪談」で、お岩役を演じるスター女優・後藤美雪(柴咲コウ)の相手役・伊右衛門に彼女の強い推挙により、恋人である俳優・長谷川浩介(市川海老蔵)が大抜擢される。しかし、美雪は浩介の影に女性の影がちらつき、終始不安を感じていた。舞台稽古は着々と進む内に、劇中で梅を演じる新人女優・朝比奈莉緒(中西美帆)が浩介を誘惑、二人は深い関係になっていく。浩介の子供を身籠ったのではないかと感じていた美雪は、浩介の気持ちが自分から離れていることを察していた。舞台稽古では伊右衛門の非道さに傷つくお岩の怨みと恐ろしさを表す佳境を迎えつつ、それを演じる人間たちの愛と欲が渦巻く現実世界がシンクロしていく。舞台に集った俳優陣が、稽古と日常のはざまで、それぞれの想いが募っていく。二つの世界で裏切りを知った美雪の“叶わぬ想い”はやがて一つの怨念となり残酷な結末を迎える。


 最近、CGで怖がらせるハリウッド調のお子様向け和製ホラーが多くなってきた中で、人間の業と四谷怪談を融合させた本作に出会えたのは近年、嬉しい出来事だった(勿論、特殊メイクもあるのだが演者の実力が際立っているから特殊メイクが一人歩きしないのだ)。まず、喰女(くいめ)というタイトルがイイ。古典の怪談講釈に出てきそうな淫を含んだ語感だけで充分怖い。原作者で脚本も手掛けた山岸きくみ曰く男を喰う女と女を喰う男という両方の意味があるというが、本作はどう考えても前者の方だ。しかも主演は『バトルロワイアル』で鎌を片手にニタ〜っと笑った顔を見た時から、いつかはお岩さんをやってもらいたかった柴咲コウだから、怖いのは想像するに容易い。
 物語は真四谷怪談を現代風にアレンジした舞台で、主役を張る柴咲演じるスター女優が、稽古を繰り返す中で愛する男に向けた愛憎によって現実と虚構が次第に交わって行く姿を描いているもの。舞台と現実がシンクロする劇中劇の映画と言えば『Wの悲劇』が挙げられるが、筆者はカレル・ライス監督の最高傑作『フランス軍中尉の女』を思い出していた。(雑誌のインタビューで脚本家も意識したと述べていた)戻るはずもない軍人を待ち続け埠頭に立つメリル・ストリープ演じる主人公を鬱病と診断する医者が立てた仮説…患者は自分を苦しめて快感を味わっている。実はその軍人は不実な男で彼女を慰み者としか見ていなかった…という事実を封印するために埠頭に立ち続けていた裏にある心理は、本作の主人公に共通するものが多い。恋人を自分の相手役に推挙してあげたにも関わらず、共演者の若手女優に手を出す男に向けられる静かな憎悪…ただし彼女の取る行動は単に男を繋ぎとめようとしているだけとは思えないのだ。無機質な彼女のマンションや夜中まで規制する道路工事という日常の空間すら禍々しく感じる。我々が目にする何気ない光景でも視点を変えるだけで血まみれの死体が動き出すよりも数倍怖いではないか。こうした三池崇史監督の鮮やかな語り口には、ただただ脱帽するばかりだ。
 本作のもうひとつの主役は林田裕至と佐久嶋依里による舞台美術。モダンでありながら純和風の美しさを持つ…まるで黄泉の国と現世を行き来するような門のような役割を担っており、登場人物たちはいつしか虚構を現実の世界に引き摺り出してしまう転換の鮮やかさに心を打たれてしまう。そして『一命』『十三人の刺客』を手掛けた北信康カメラマンによる重々しい銀残しの室内映像。柴咲コウ演じる美雪のマンションと稽古場を行ったり来たり…の室内シーンが殆どだが、舞台をゆっくりパンをするカメラの動きだったり、マンションの部屋全体を覆う養生シートが生き物のように揺れるのをカメラをフィックスさせて捉えたり…と、ひとつの心的映像を完成させるためにカメラワークと美術が一体となっている仕事に、まずは惜しみない拍手を贈る。
 怪談には結論なんて必要ない!これは筆者の自論だが、何が善で何が悪か?なんて人の世では、これ程不確定なものは無い。キリスト教文化のハリウッドホラーでは、絶対悪の悪魔がホラーの中心にいるのは仕方ないけどね。死んだら人間は皆仏になるという教えがDNAにこびりついている日本人にとって曖昧な結末でエンドロールが流れ、ジワジワと恐怖が浸透してくる怪談にも和食と同様に世界文化遺産の称号を与えるべきだ。

「時々、芝居の世界から出たくない時がある」と伊藤英明が言うセリフに対し、「私は無いわ…」と答える柴咲コウの姿に単純な愛憎劇とは違う心理を感じた。

【三池 崇史監督作品】

平成7年(1995)
第三の極道
新宿黒社会チャイナマフィア戦争

平成8年(1996)
極道戦国志 不動

平成9年(1997)
岸和田少年愚連隊
 血煙り純情篇
極道黒社会

平成10年(1998)
中国の鳥人
アンドロメデイア
岸和田少年愚連隊
 望郷

平成11年(1999)
日本黒社会
サラリーマン金太郎
DEAD OR ALIVE
 犯罪者

平成12年(2000)
オーディション
漂流街
DEAD OR ALIVE2
 逃亡者

平成13年(2001)
ビジターQ
天国から来た男たち
殺し屋1

平成14年(2002)
DEAD OR ALIVE FINAL
カタクリ家の幸福
荒ぶる魂たち
新・仁義の墓場
極道聖戦
金融破滅ニッポン
 桃源郷の人々
SABU さぶ

平成15年(2003)
許されざる者
極道恐怖大劇場
 牛頭 GOZU

平成16年(2004)
着信アリ
ゼブラーマン
IZO

平成17年(2005)
妖怪大戦争

平成19年(2007)
スキヤキ・ウエスタン
 ジャンゴ
クローズZERO

平成21年(2009)
ヤッターマン

平成22年(2010)
十三人の刺客
ゼブラーマン
 ゼブラシティの逆襲

平成23年(2011)
一命
忍たま乱太郎

平成24年(2012)
愛と誠
悪の教典

平成25年(2013)
藁の楯

平成26年(2014)
喰女 クイメ
神さまの言うとおり
土竜の唄
 潜入捜査官 REIJI



日本映画劇場とは看板絵ギャラリーお近づきに…

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