クジラのいた夏
大人になりきれない若者たちの、一夜限りの青春ストーリー!!

2014年 カラー ビスタサイズ 89min ユナイテッドエンタテインメント配給
製作 井本直樹、丸山勇雄、佐伯寛之、長田安正、菅谷英一 監督、脚本 吉田康弘 脚本 大浦光太
撮影 千足陽一 音楽 きだしゅんすけ 照明 佐藤宗史 録音 光地拓郎 編集 細野優理子
スタイリスト EIKI 衣裳 松本達也 企画 村田亮 プロデューサー 大垣修也、吉見秀樹
出演 野村周平、松島庄汰、浜尾京介、松岡卓弥、土井玲奈、気谷ゆみか、小野賢章、大坪あきほ
鈴木美香、佐津川愛美

(C) 2014「クジラのいた夏」製作委員会


 若者から大人への旅立ちは、すでに引かれたレールの上を生きることへの抵抗感と、生きる目的を探したいという焦燥感が絡み合うモラトリアムな期間。本作品は日本のどこにでもある地方都市に住む4人の若者が抱える悩みを、等身大のキャストを揃え瑞々しいタッチで描き出した青春ストーリーだ。主人公チューヤには今をときめく若手実力派俳優、野村周平。チューヤを取り巻く悪友たち、J“ジェイ”役には映画・舞台など幅広く活躍する松島庄汰、ギズモ役には今年芸能活動休止発表が記憶に新しい浜尾京介、町田役には元サーターアンダギーで歌手としても活躍する松岡卓弥、そしてチューヤ憧れの先輩に実力派女優の佐津川愛美など蒼々たる顔ぶれが名を連ねる。監督・脚本には、この夏『江ノ島プリズム』で青春ジュブナイル映画で、久々にスマッシュヒットを叩きだした期待の新鋭、吉田康弘。若者たちにちょっと勇気を与え、ほろ苦い感動を与える爽やかな青春ストーリーが誕生した。


※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
 目的や夢もなくただ日々生きている地方都市の青年チューヤ(野村周平)が、ふと東京に出ることを決めた。そして地元を離れる最後の日に高校時代からの親友、J“ジェイ”(松島庄汰)とギズモ(浜尾京介)そして町田(松岡卓弥)が大送別会を開くことに。過去の想い出にしがみついて、引越しに足踏みしているチューヤに対し、彼らはある提案をする。そんな時、上京し芸能人として活躍しているはずのかつての憧れの先輩、弓子(佐津川愛美)が現れた事で、チューヤの心は揺らぎだす。地元に留まるべきか、離れるべきか…大人になりきれない地方の若者たちの物語がはじまる。


 昨年、シネマート新宿の最上階にある小さな劇場(ここで掛かるインディーズ系が、近年すこぶる充実している)で観た青春映画が、ずっと頭から離れないでいた。それが、吉田康弘監督の『クジラのいた夏』だ。これといった目標があるわけではないモラトリアムな若者が、何かを求めて東京に出て行く前日を描いた本作は、多分、大多数の若者にとって、決して他人ごとではないはずだ。野村周平演じる主人公は、「とりあえず、ここから出たい」と思う。かつて恋愛を成就する事が出来なかった先輩との楽しい東京ライフを夢見てたってイイじゃないか…東京に行けばきっと何かが変わるさ…なぁんて、そんな若者たちがゴロゴロしているのも東京だ。高校時代からの親友たちは、温かく見送りの送別会という名目で集まりながらも、そんな主人公の無謀を止めようと、あの手この手で仕掛けてくる。
 特に前半の、旅立つ最後の思い出に、二人の元カノと再会行脚をするくだりは、後半に続く主人公が自身の覚悟と向き合う姿へと無理なくつながる脚本の上手さに感服させられてしまった。かつては可憐なバレエ少女だった子が、バリバリのストリートダンサーとなっていて、主人公の淡い想いを打ち砕くように変質者呼ばわりされる一悶着で笑いを誘った後に、ピンサロの風俗嬢になっていた次の元カノが現実を踏まえて逞しく生きており、それに比べて自分の幼い姿に愕然としたり…と、緩急自在の話の運び方が実に巧みで、観客の関心を外さない吉田監督の手腕に感服せざるを得ない。
 まだ主人公も覚悟が固まっていないものだから、親友から「こいつに夢なんてねーよ。地元にも一歩距離を置いているから無難に就職も出来ず、そうだ!東京行こう!と勢いで言ってみたものの本当のところ自分でも分からないまま今日に至っているんだ」と、ズバリ痛いところを突かれる始末。この親友を演じる松島庄汰のセリフには思わずドキッとさせられてしまう。印象に残るシーンがある。その後、その店でアルバイトしながらお金を貯めて、いつか東京でアイドルになる夢を抱いている女の子が、実は高校生だったと主人公が気付いてしまうくだりだ。慌てて学生証をひったくって女の子が主人公に「誰にも言わないで。お兄さんと違って私は本気だから」という言葉が胸に響く。
 前作『江ノ島プリズム』に引き続き千足陽一のカメラは、若者の心情的イメージを的確に捉えている。冒頭、プールサイドで、友人が童貞を捨てただの、水族館にクジラが来ただの(これがタイトルロールになるのだが)と話し込むシーン。瑞々しい青春の一遍としてキラキラ光り輝いていた。カメラ演出でいえば、後半で友人たちの画策に気付いた主人公が言い争い喧嘩する深夜のアーケードのシーンにおける画角が秀逸。シャッター通りとなった商店街だが、「ここが何の店だったか覚えている奴いるか」という主人公の叫びに、ポツポツと灯がついて…なんだ、ちゃんと人々がそこで生活しているじゃないかと、分かる映像から地元の息づかいを感じさせる心憎いテクニックに拍手。

「さて、どっち行く?」町を出て行く主人公の最後のセリフが決まる。


レーベル: (株)ポニーキャニオン
販売元: (株)ポニーキャニオン
メーカー品番:PCBG-52428 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 3,324円 (税込)

【吉田康弘監督作品】

平成18年(2006)
キトキト!

平成24年(2012)
旅立ちの島唄 十五の春

平成25年(2013)
江ノ島プリズム

平成26年(2014)
クジラのいた夏



日本映画劇場とは看板絵ギャラリーお近づきに…

Produced by funano mameo , Illusted by yamaguchi ai
copylight:(c)2006nihoneiga-gekijou