さよなら歌舞伎町
新宿 歌舞伎町のラブホテル。愛がみつからない大人たち、男と女が交錯する、かけがえのない1日

2014年 カラー ビスタサイズ 134min 東京テアトル配給
製作総指揮 久保忠佳 製作 藤岡修 監督 廣木隆一 脚本 荒井晴彦、中野太
撮影 鍋島淳裕 音楽 つじあやの 主題歌 meg with SWEEP 音楽プロデューサー 安井輝
照明 豊見山明長 プロデューサー 平田樹彦、成田尚哉、湊谷恭史、内藤和也
出演 染谷将太、前田敦子、大森南朋、松重豊、南果歩、村上淳、忍成修吾、田口トモロヲ
イ・ウンウ、ロイ(5tion)、樋井明日香、我妻三輪子、河井青葉、宮崎吐夢

(C) 2014「さよなら歌舞伎町」製作委員会


 一流ホテルマンと周囲に偽る歌舞伎町のラブホテルの店長・徹。彼は有名ミュージシャンを目指す沙耶と同棲しているがちょっぴり倦怠期。勤め先のラブホテルでいつもの苛立つ1日を過ごすはずだった。そこに集まる年齢も職業も違う訳アリな男と女たち。彼らの人生が鮮やかに激しく交錯した時にあらわれる欲望や寂しさ、そして秘密。徹の人生もまた予期せぬ方へ変わっていく。主演、ラブホテルの店長として、さまざまな人間模様に翻弄されながらも成長していく青年・徹役には、『ヒミズ』で日本人初の第68回ヴェネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞し、若手俳優きっての実力派として『寄生獣』など話題作に次々と出演する染谷将太。彼自身でしか演じきれない表情を自然体のまま好演。ヒロイン、徹の恋人で、有名ミュージシャンを目指す沙耶を演じるのは前田敦子。『苦役列車』、『もらとりあむタマ子』をはじめ、日本映画有数の監督たちがこぞって起用し、トップアイドルから本格派女優としての道を歩む。本作では、ギターの弾き語りを披露し、恋に揺れる大人の表情はかつてなく美しい表情である。そして、染谷、前田に加え、時効が明日に迫った逃亡犯の二人を南果歩と松重豊。風俗スカウトマンと家出少女に忍成修吾と我妻三輪子。逢瀬を重ねる不倫刑事カップルに河井青葉と宮崎吐夢。そして、日本で暮らす韓国人の恋人同士を、キム・ギドク監督衝撃作『メビウス』に出演するイ・ウンウと、人気アイドルグループ「5tion」のロイが演じている。また、大森南朋、村上淳、田口トモロヲが、彼らの人生とすれ違う男たちに扮して印象深い。


※物語の結末にふれている部分がございますので予めご了承下さい。
 徹(染谷将太)と沙耶(前田敦子)は同棲中だがちょっぴり倦怠期。ミュージシャンを目指す沙耶が窓辺で弾き語りをしている。何気ない会話、じゃれ合い、それは、いつも通りの朝だった。韓国食材店にて、ブティックの開店資金ができたので彼氏に一緒に母国に帰ろうと誘う韓国人のイ・ヘナ(イ・ウンウ)。彼氏のアン・チョンス(ロイ[5tion])は、自分はまだ開店資金が足りないから帰れないと話す。「ホステスってそんなに金もらえるのか」「まあね…」彼女がなぜそんなに早くお金が貯められたのか疑うアン・チョンス。ふたりの間に気まずい雰囲気が流れる。あるアパートの一部屋。一匹の魚を分け合い、身を潜める二人。チャイムが鳴る、男・康夫(松重豊)は押し入れに隠れ、女・里美(南果歩)はメガネをかけ変装する。ふたりは時効寸前のカップルだった。「あと38時間、辛抱して」徹と沙耶は二人乗りして仕事場へ向かう。たわいないもない将来の話をする二人。「徹のホテルでブライダルすると、安くなるんでしょ。」一流ホテルに勤めている徹に楽しげに話しかける沙耶。その時、沙耶の携帯が鳴る。自転車から降りて、電話出ると、それはある人からの誘いだった。沙耶を残して、仕事先へ向かう徹。その先は、一流ホテルではなく、新宿歌舞伎町のラブホテルだった。


 下北沢を舞台にした市川準監督の群像劇『ざわざわ下北沢』を筆頭に(もっと遡れば自主映画に近い太秦を舞台にした名作『ザ・ハリウッド』なんて秀作も)渋谷のラブホ街を舞台に『渋谷区円山町』などなど…頭に思い浮かぶタイトルだけでも優に数十本を超えるほど近年、街にフォーカスを当てたドラマが多く作られている。廣木隆一監督は、歌舞伎町にひしめきあうラブホテルにスポットを当てて、そこで働くワケありな人間たちと、様々な嗜好とやはりワケありなカップルの一夜を巧みな話法で描き上げている。しかも一箇所のラブホ内で起きる出来事に限定しながらも、しっかりと街から漂う匂いも拾い上げていて…廣木監督、さすがである。結構ハードな絡みもアッケラカンと描くあたりなんか、日活ロマンポルノの次の世代…ビデオ時代のアダルト作品を手掛けてきた廣木監督と脚本家・荒井晴彦らしさがよく出ている爽やかな群像劇となった。1室ワンシチュエーションという構成に、なるほど〜こんな作り方もあるのかと、フェティッシュな人間関係を得意とする廣木監督のしたたかな演出に感服させられた。
 冒頭、物音をたてずに朝食をとる南果歩と松重豊演じる熟年カップルのエピソードが秀逸。「魚一匹、一人で食べたいなぁ」と、呟く男に対して「ゴミを見られたら、二人いるって疑われちゃうから駄目よ」と、女は言う。何だ?借金取りから隠れているのか…と思いきや、男は傷害事件を起こした犯人で、時効まで、あと二日に迫っていたのだ…という設定に思わず唸ってしまった。男を置いてラブホの清掃バイトに出掛けて行く南果歩の見事なオバさんぶりに拍手を送りたい。浴室を足と手の両方を使って雑巾掛けする姿は最高ではないか。ここに絡んでくるのが事件を追いかけていた女刑事…なのだが、見つけたのがラブホの中。同僚のキャリア刑事と不倫中という事で署に報告すべきかの鬩ぎ合いとなるのが面白い。とりあえず逃げられないようにプレイで使っていたオモチャの手錠を掛けるところが面白かった。『私の男』で大胆なベッドシーンを披露した河井青葉が仕事と家庭を天秤にかけて悩める女刑事を好演している。
 こうして俯瞰からラブホという世界を見ると、単なるセックスをする場という特殊性の向こうに、人間の切なさが浮かび上がって、さり気ないシーンで感動させられる。ユニクロの服を買えるかどうか…という言葉にドキっとしたり、ホテトルって死語なんだと驚いたり。お台場のホテルで働いていると、彼女が家族に嘘をついて、実はラブホの店長をしている染谷将太演じる主人公の脱力感もイイ感じだ。しかも部屋にピザを届けに行くとAV撮影の現場で女優として働く妹にバッタリ…という御愛嬌も。そして、もう一人、特筆したいのは韓国人のデリヘル嬢に扮したイ・ウンウの愛らしさである。献身的に男性客につくし、危険な目にあっても相手を赦す姿は、『あなただけ今晩は』で娼婦を演じたシャーリー・マクレーンを彷彿とさせる…というのは言い過ぎだろうか?

「ここでの事は全部、忘れるつもりだから…」韓国に帰るイ・ウンウ演じるデリヘル嬢がラスト近くで言うセリフ。

【廣木 隆一監督作品】

昭和59年(1984)
先生、私の体に火をつけないで
痴漢とスカート

昭和61年(1986)
SM教室・失禁
白衣調教

平成2年(1990)
さわこの恋

平成6年(1994)
夢魔

平成7年(1995)
ゲレンデがとけるほど恋したい。

平成11年(1999)
天使に見捨てられた夜

平成12年(2000)
東京ゴミ女
不貞の季節

平成14年(2002)
いたいふたり
理髪店主のかなしみ
火星のカノン

平成15年(2003)
ヴァイブレータ

平成16年(2004)
機関車先生

平成17年(2005)
ラン・スパイ・ラン
終わらない歌
太陽の見える場所まで
L'amant ラマン

平成18年(2006)
恋する日曜日
予感
やわらかい生活

平成19年(2007)
M
恋する日曜日
 私。恋した

平成20年(2008)
ニュータイプ
 ただ、愛のために
きみの友だち
縛師 BAKUSHI

平成21年(2009)
余命1ヶ月の花嫁

平成22年(2010)
雷桜

平成23年(2011)
僕らは歩く、
 ただそれだけ
軽蔑

平成25年(2013)
だいじょうぶ3組
きいろいゾウ
RIVER

海辺の街で
100回泣くこと

平成26年(2014)
娚(おとこ)の一生
さよなら歌舞伎町

平成27年(2015)
ストロボ・エッジ



日本映画劇場とは看板絵ギャラリーお近づきに…

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