世界各国の映画祭で高い評価を得たショートフィルム『不老長寿』を手掛けた緒方篤監督の初長編映画となる『脇役物語』が“ブリリア ショートショート シアター”他、全国順次ロードショー公開されている。万年脇役俳優の主人公ヒロシに映画主演のチャンスが巡ってきた事から展開される波乱に満ちた数日間を描いたハートフル・ラブコメディだ。国際協力機構理事長の緒方貞子を母に持ち、米国ハーバード大学、MITマサチューセッツ工科大学に学び、卒業後は日本の大手コンピューターメーカーでソフトウエア開発を行っていたという異色の経歴を持つ緒方監督に、映画制作にかける思いと何故映画の世界に足を踏み入れようと決意したのか?その真意を尋ねてみた。

 「人生誰もが脇役なんですよね。」開口一番、緒方監督は初長編作品の題材として“脇役俳優”にスポットを当てた理由についてこう述べた。「会社でも上司がいたり、家庭でものけ者にされて自分の居場所がなかったり…そういう人たちに脚光を浴びせた映画を作ったら面白いのでは?と思ったのが始まりでした」緒方監督はヒーロばかり出てくる映画じゃ一般の人が感情移入出来ないというわけで、限りなくどこにでもいる人間の映画を作りたいと考えていたと語る。確かに『脇役物語』は“脇役俳優物語”ではなく、脇役の人生を歩んで来たヒロシの物語であった。仕事でも脇役、家に帰っても大物劇作家の父の脇役なのだ。そんなヒロシを日本が誇る名バイプレイヤー益岡徹(長編としては初主演である)が演じるという事で注目されているが、緒方監督にとって前作『不老長寿』に続くキャスティングとなる。今回、緒方監督にとって初の長編となるわけだが、短編と比べての苦労について聞いてみると「今まで脚本を書いてきたり、オランダで喜劇役者としてテレビや舞台を経験して、それまで培ってきた経験を活かす事が出来たので現場で悩む事は少なかったです。むしろ、10年近く色々と構想を練ってきて、ちょうど熟したところで今回のお話しがあったので、それを全てぶつけたって感じ…だから、うわ〜長編だ!大変だっていう事は無かったですね」と語る緒方監督。前回の短編『不老長寿』の方がプロディース、監督、脚本、衣装の他にお弁当の手配からスタッフに渡すお金の計算などのライン・プロデュースまで一人でこなさなければならなかったので今回は監督業だけに専念出来たのがありがたかったという。

 そんな緒方監督にとって創作活動にとって大切な事とは何だろうか…と尋ねてみると「創作活動は、こだわらなければ、ただの処理作業になるわけですから。最後の判断を下さなくてはならない私がこだわらなくてはならないと思っています」と答えながら撮影時を振り返る緒方監督。予算内のフィルムに限りがあり、何度も撮り直しが出来ないため本番に入る前に出演者と納得が行くまでリハーサルを繰り返したという。それぞれのプロフェッショナルに仕事を託して、仕上がったものに最後のこだわりを求めるジャッジを下すのも監督の仕事と今回の制作を通じて緒方監督は再認識したという。実際、オープニングのアニメーションを手掛けたオランダのデザイナーに時間が無い中、手直しを依頼したところ、不可能と言っていたデザイナーから結果的に良いものが上がってきたという。「音楽とかアニメーションとか私の専門分野ではないから、出来上がりと自分のイメージとが合っているかどうか…もし、それが違っていたら、もうひと頑張りお願いする(笑)」勿論、周りのスタッフからもたくさんのアイデアが出て良いものはドンドン採用してきたという緒方監督。「映画は共同で作り上げるものですから、スタッフから出た良い意見を取り入れる事によって1プラス1が100にも500にもなるのですよね」それでは、監督にとって一番大事な事とは何か?という質問に対して「元々、何が概念で何をやりたいか…ということをハッキリしていること」と言い切る緒方監督。それが無いと、現場で色々な意見や進言が出てくると主軸がブレてしまうというのだ。

 「上海国際映画祭やアメリカの映画祭で上映された時、お客さんが僕の狙っていたところと同じシーンで笑うんですよね。“コメディは国境を越えない”とよく言われていますが、海外の色々な国で生活していく内に、いつの間にか共通の笑い…みたいなものを身につけてしまったのかも知れないですね」と語る緒方監督。ハーバード大学で経済学を学び、帰国してからソフトウェア開発に携わった緒方氏が、笑いや映像の世界に目を向けるようになったのは、社会に出てしばらく経って、大学院に戻ってからのことだった。「映像の世界に入ったのは、深い理由なんて無い…ただ性に合ったから」とあっけらかんと答える緒方監督。そして、オランダのクイズ番組に出演した際、番組をかき回す日本人の役回りが大当たりして独自の笑いが注目されるようになる。それから、久しぶりに日本に戻ってきて震災の被害にあった新潟県十日市町を舞台とした短編作品『不老長寿』を監督として手掛ける事になる。「日本語で“監督”なんて呼ばれ慣れていないから誰の事を言っているのかわからなかった(笑)」そこで初めてベテランのスタッフと一緒にした事が緒方監督の映画制作における転機となった。「それまで若手のクリエイターとお仕事をしましたが、この道20年以上の日本人スタッフの皆さんとお仕事して、こんなに早く仕事が進むのか…と驚きました」という緒方監督は、再び『不老長寿』のスタッフに声を掛けて本作の撮影に挑んでいる。

 「次回作は日本ではなく海外で…」と語る緒方監督。既に次回作の構想は練られており、色々な国の人が出てくる犯罪コメディを考えているという。取材が進むにつれ、いつか緒方監督によるウディ・アレンのリメイクを観たくなってしまった。その時、“コメディは国境を越えない”という定説を緒方監督は覆してくれるかも知れない。
取材:平成22年11月6日(土)舞台挨拶時 ブリリア ショートショート シアター会議室にて


緒方篤/Atsushi Ogata
米国ハーバード大学卒、富士通に入社。休職し、MITマサチューセッツ工科大学修士課程卒。復職後、富士通花の万博推進室に在籍。ドイツのKHMメディア・アート・アカデミーに客員作家として招待され、退職。以後、映像作家・脚本家、俳優、監督として、ドイツ、オランダを中心に活動。米国、日本でも発表。長編監督デビュー作『脇役物語』は、上海、カリフォルニア、ニューヨーク、インドなど多数の海外映画祭に入選。音楽とアニメーションはロサンゼルスで受賞。10月からの全国順次ロード・ショーに継ぎ12月にはサンフランシスコでも劇場公開。小説版は竹書房より出版。

【緒方 篤監督作品】

平成17年(2005)
シャンパン

平成18年(2006)
不老長寿

平成22年(2010)
脇役物語



日本映画劇場とは看板絵ギャラリーお問い合わせ

Produced by funano mameo , Illusted by yamaguchi ai
copylight:(c)2006nihoneiga-gekijou